
もっと身近な例でいえば仕事先に車で訪問した際、訪問先は「菊間千乃」で駐車場を予約してくれているのに、私の運転免許証(戸籍名)が違うという理由で、係員の方から「あなたが菊間千乃であるということを証明してください」と言われたことがありました。週に1度はこういったことが起こります。
パスポートへの旧姓併記は海外で疑われる
パスポートに旧姓併記を考えたこともありますが、渡航先への入国時のトラブルを避けるため断念しました。パスポートのICに掲載されていない「旧姓(Former Sername)」の併記によって、かえって偽造が疑われ混乱が生じているという話を聞いたからです。つまり、入国審査の際に毎回説明が必要になってしまうのです。
米国で公認不正検査士という資格を取った時、「菊間千乃」名義での免状発行を主張したところ認めてもらえたように、海外では「旧姓併記」なんて全く理解されないのが現状で、犯罪に加担しているのではないか、など逆に訝しがられてしまう。もし政府が旧姓併記を推奨するのであれば、パスポートに旧姓併記をしている女性に、訪問国でトラブルに遭わないように、各国の言語で、「日本は結婚すると姓を変えなければいけない強制的夫婦同姓制度を採用しているのだが、結婚前からの姓も通称として使用していることを認めているので、旧姓も併記しているよ」という内容のペーパーを作成し、ダウンロードできるようにしておいてください、と言いたいですね。

――立憲民主党が4月にまとめた民法の改正案は「夫婦の姓については、結婚する時に夫か妻のどちらかの姓に統一するか、別姓にするかを選ぶ。また、夫婦が別姓を選ぶ場合、子どもの姓についても、結婚する時に夫か妻のどちらの姓にするか決める」としている。同党は「個人の尊重と男女の対等な関係を構築する観点から、選択的夫婦別姓制度を導入する必要がある」としてはいるものの、違和感が広がっている。
「子どもの姓を婚姻時に決める」ことへの違和感
1996年の法制審議会では、子どもの姓についても議論され、「婚姻時に子の姓を届け出て、その姓の者を筆頭者とする家族戸籍は維持される。原則として子の姓は統一し、『特別の事情』があれば家裁の決定により子の氏の変更ができる」という考え方が示されました。その流れを受けて、今回の立憲民主党案には、子どもの姓を「婚姻時」に決めることが盛り込まれています。
でも、子どもを持つかどうか、持てるかどうかは夫婦によって異なりますし、結婚後に気持ちが変わることだってある。そんな重要な決断を婚姻時に求めるというのは無理があると思います。
現行制度はそもそも「強制的夫婦同姓」というところが問題ですよね。選択的夫婦別姓制度においても、原則、婚姻時に同姓か別姓かを選択しなければならないという点が難しいということです。結婚してみて、改姓の違和感や問題点に気づくということもあるわけで、そういう場合には、夫婦の同意によって、同性婚から別姓婚に変えられるという柔軟性があると、より良いと思います。私自身がそうでしたが、姓を変えることの違和感や問題点は、実際に結婚してみないとわからないと思います。後から別姓に変更できる柔軟性も必要ですし、結婚時点で決めきれない人もいるはずです。
姓も名も、個人として尊重されるための基盤です。菊間だけでなく千乃もあわせて“私”。自分の名前が強制的に変えられてしまうことによって、日常的にトラブルや違和感を生み出す。そういうのが起きるたびに小さな鈍痛を感じます。
憲法24条は、両性の合意のみで婚姻が成立すると規定しているのに、民法750条はどちらかが改姓しないと婚姻が成立しないとしています。両性の合意以外に婚姻の要件を追加している点はそもそも憲法違反であり、問題だと思っています。
(構成/AERA編集部・大崎百紀)
こちらの記事もおすすめ 「このままだと500年後はみんな佐藤さんに 選択的夫婦別姓制度の早期実現を」小島慶子