
150キロを超える直球を投げられなくても、打者を抑える術はある。野球の奥深さを証明した投球を見せているのが現役最年長の45歳左腕・石川雅規だ。
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5月4日の阪神戦では、6回6安打1失点の快投で2勝目をマーク。直球の平均球速は130キロ前後。球速だけを見れば高校生より遅いが、シンカー、スライダー、カットボール、シュート、カーブ、チェンジアップと多彩な変化球を操り、クイックで投げたり、間合いを長くしたりと、打者のタイミングを巧妙に外す。6回2死一、三塁のピンチでは前川右京に対し、内角にシュートを投げ続けて右飛に仕留めた。
他球団の首脳陣は「石川さんの投球術は参考になる点が多い」と力説する。
「左打者の前川に対し、スライダーやカーブで配球を組み立てるのが定石ですが、シュートで内角をえぐったのは浜風が吹く右翼に引っ張られても長打にならないという計算が合ったのでしょう。ただ、それは内角にきっちり投げられたらの話です。制球ミスで真ん中に入ったら痛打を浴びる危険性が高い。洞察力、配球術、制球力とすべてが高度な水準だから打者を抑えられる。まだまだ勝てますよ」
「本人は本格派だと思っている」
変化球を駆使する投球術とはいえ、技巧派というわけでもない。球団OBは「石川さんはああ見えて短気なんですよ」と苦笑いを浮かべる。
「普段はニコニコしていて誰に対しても物腰が柔らかいけど、マウンドに立つと人格が変わる。打たれたらカッカしてどんどんストライクゾーンに投げて、『冷静になりましょう』と言っても聞いていない(笑)。でもそのエネルギーがあるからこの年齢まで現役で投げられるんでしょうね。石川さんは自分のことを本格派だと思っています。勝負の場面でも強打者相手に内角へ直球系の球を投げ込む。かわすだけの投球では、あれだけの白星を積み重ねられません」
身長167センチはプロの中で小柄だ。負けん気の強さが己を支えていた部分はあるだろう。4日の白星で通算188勝目に到達。今年は入団以来24年連続勝利のプロ野球新記録を樹立している。これが意味することは、肩、肘の故障で長期離脱がないことだ。
11度目の2ケタ勝利をマークしたのが、13勝をマークした2015年。近年は登板後にいったん抹消して中10日以上の登板間隔を空けるケースが多い。疲労のたまり方が20、30代のころとは違うのだろう。首脳陣は故障のリスクも考えながら起用しているとみられ、昨年の投球回数は自己最少の37回1/3にとどまったが、力が一気に衰えたイメージはない。