IGPIグループ会長・日本共創プラットフォーム会長・冨山和彦さん(本人提供)

「この『代替』と『補完』の違いが、グローバル産業を中心とするホワイトカラーの仕事の人余りを拡大させていく半面、現場仕事の人手が大きく不足する背景にあります。ホワイトカラーの過剰傾向は世界的潮流です」(冨山さん)

 欧米のグローバル企業ではIT導入の初期段階で、経営と現場の中間に位置する「販売管理系」を中心とするホワイトカラー職種の人員整理が進んだ。しかし日本の場合、多くの企業で終身雇用制が続き、ホワイトカラー人員の余剰感がある、と冨山さんは指摘する。

「日本の上場企業と海外のグローバル企業の販管費(販売費および一般管理費)を比較すると、おおむねどの産業分野でも日本企業が5%ほど多くなっています。これがホワイトカラーの余剰人件費に相当します。今後AIが本格導入されると、日本でも労働力の代替が一気に進み、企業は不要なホワイトカラー人材を雇用しなくなるでしょう」

 その動きは既に始まっている。

 東京商工リサーチの集計によると、24年に早期・希望退職の実施計画を公表した上場企業は、前年比16社増の57社で、募集人員の合計が21年以来3年ぶりに1万人を超えた。業種別では電気機器が13社と最多で、10社の情報・通信業と続く。特徴的なのが、57社のうち約6割にあたる34社が直近の決算では純損益で黒字だった点だ。業績堅調にもかかわらず、希望退職を募って人員削減に踏み切る大手企業が相次いでいるのだ。

 冨山さんは「人員削減のターゲットは人事部や総務部、経理部などの間接部門や、営業職などの販売管理にかかわる業務など、中高年のホワイトカラー職」だと言う。

 株式市場からの視線も厳しくなり、業績が本格的に悪化する前にAIの導入も見据え、先んじて構造改革に踏み切る傾向が企業内部で強まっている。そうなると今後、多くのホワイトカラーは「中間層」の階級を維持できなくなる可能性が高いという。

「ホワイトカラーで残る仕事は、本当の意味でのマネジメント業務と、高度にクリエイティブなデスクワークに限られます」(冨山さん)

 マネジメント業務は中間管理職が担っている管理業務ではなく、経営の仕事だ。問いのある仕事、正解がある仕事は、圧倒的な知識量で昼夜問わず働くAIの労働力に人間は勝てない。このため、ホワイトカラーの大半が占める「部下仕事」は生成AIに急速に置き換わり、残るのは自ら経営上の問いを立て、生成AIなども使って答えの選択を想像し決断する「ボス仕事」、つまり中間経営職のポストだけだという。

次のページ 明治維新後に一斉に失業した武士階級と同じ