岩松了(いわまつりょう)/ 1952年生まれ。長崎県出身。東京外国語大学外国語学部ロシア語科中退。89年『蒲団と達磨』で岸田國士戯曲賞、93年『こわれゆく男』『鳩を飼う姉妹』で紀伊國屋演劇賞、98年『テレビ・デイズ』で読売文学賞、2018年『薄い桃色のかたまり』で鶴屋南北戯曲賞を受賞。映画「東京日和」で、日本アカデミー賞優秀脚本賞を受賞。テレビドラマや映画の脚本家・監督としても活躍。(撮影/高橋奈緒)
岩松了(いわまつりょう)/ 1952年生まれ。長崎県出身。東京外国語大学外国語学部ロシア語科中退。89年『蒲団と達磨』で岸田國士戯曲賞、93年『こわれゆく男』『鳩を飼う姉妹』で紀伊國屋演劇賞、98年『テレビ・デイズ』で読売文学賞、2018年『薄い桃色のかたまり』で鶴屋南北戯曲賞を受賞。映画「東京日和」で、日本アカデミー賞優秀脚本賞を受賞。テレビドラマや映画の脚本家・監督としても活躍。(撮影/高橋奈緒)
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 俳優・劇作家・演出家として、唯一無二の個性を持つ岩松了さんが、71歳にして、20代を主人公にした舞台を書き下ろす。それは、40年近く前の、初めて戯曲を書いた頃に回帰する作業でもあった。

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 アイドルから女優に移行していく最中の小泉今日子さんを舞台に誘うなど、人気俳優の舞台起用には昔から定評があるが、普段から、「この人を自分の芝居に出してみたい」など、アンテナを張ることはないらしい。

「昔、蜷川(幸雄)さんと話すと、若手の俳優に詳しくて、『あいつは派手だ』とか言っているのを聞いて、『蜷川さんはよくアンテナ張ってるなぁ』と思ったくらい。仲野太賀は、芝居のことを話すときによく僕の名前を出してくれてるみたいで、まわりからもそう言われますけど、初めて会ったのはオーディションで、そのときすでに何か光ってた。だから僕が彼の魅力を発掘したなんてことは全然なくて、やっぱり彼に才能があったんだと思う。そんな、人が導いていけるものじゃないでしょう、役者なんて」

 現在71歳だが、50代と言っても通用するほど見た目は若い。「創作に関わらず、年齢を重ねることをどう捉えていますか?」と聞くと、「それはちょっと不意な質問だったな」と頭をかいて、「僕、今度やる舞台で、『赦す』という行為を、ドラマとして描きたいなと思って」と続けた。

 今度やる舞台とは、6月に本多劇場で上演される「カモメよ、そこから銀座は見えるか?」。井之脇海さんと黒島結菜さんがきょうだい役を演じる。タイトルに「銀座」と入っているのは、「銀座が風向きによって海の匂いがするって聞いたんですよ。それがすごく新鮮で」と、まるで深い意味はないかのように話す。本作を着想したきっかけは、91年に発表した「スターマン」という戯曲。

「僕がまだ戯曲を書き始めて間もない頃で、自分がいちばんアナーキーだと思ってた時代です(笑)。『スターマン』は、初めて女性を主人公にしていて、割と閉じこもり気味の兄と妹の話でした。妹に彼氏をつくらせようと、兄貴が自分の手下みたいなやつを紹介するんだけど、その彼を妹の友達に取られちゃうみたいな……。黒島結菜って人が、僕の中で何となくその妹と印象が重なるものがあったんで、そのきょうだいの後日談を書こうと思った。そこから広がる家族や、その愛人の話なんかを、銀座の街を舞台に展開させたいと考えたんです」

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