撮影/高橋奈緒
撮影/高橋奈緒

「僕が本を書き始めたとき、『アナーキー』っていう言葉の意味を知った気分だったんです。つまり、当時は自分がいちばんアナーキーだと思ってたってことなんですけど(笑)。人が何と言おうと、自分は自分のできることしかできない、人は上下に並んでるんじゃない、横に一列に並んでるだけだ、と思えた。この年になって感じるアナーキーは、自分の中のルールが広がったというか……。『なんだ、ルールなんてないじゃん』ということを、自分の中で発見したような感覚になってる。そういう意味では、ちょっと書き始めた頃に近いかもしれないですね」

 劇団を持たない岩松さんは、いわゆるプロデュース公演という形で、岩松さんの才能に惚れ込んだプロデューサーに背中を押されるような形で、戯曲を書き続けた。そうしてある時期から、「失敗」の2文字を恐れるようになった。

「ある時期まで、書くことに失敗したと思ったら、しばらくは身を隠したいぐらいの気持ちになっていたんですが、今はたとえ失敗しても、その後ろにもう一人の自分がいて『大丈夫、大丈夫』と背中を押してくれるみたいな感じです。やっと芝居を面白がれるようになってきたから、あと30年ぐらいやれたら、人並みのことを書けるような気がするんだけど(笑)」

撮影/高橋奈緒
撮影/高橋奈緒

(菊地陽子 構成/長沢明)

※記事の後編はこちら>>「ダルビッシュ有の言葉に71歳の劇作家が感心『自分もそうありたい』」

週刊朝日  2023年4月28日号より抜粋