文体論を長年研究し、『日本の作家 名表現辞典』など様々な辞典を編纂した著者による名表現の案内書だ。
「円い甘さ」のようにはっとするような結びつきで読者の眼をしばたたかせる川端康成、暗い部屋の中で蝋燭の焔が揺れる様子を「夜の脈搏(みゃくはく)」と表現する谷崎潤一郎、「湯桶のような煙突が、ユキユキと揺れていた」と独創的なオノマトペで新鮮な感覚を感じさせる小林多喜二。プロの作家たちによる名表現がどのように書かれているかを分かりやすくひもといていく。
「人生に、汗水たらして働くだけではない、ゆとりの時間が必要なように、文章にも的確で効率のよい表現を求めるだけではない。人間は《ことばで遊ぶ》楽しみも知っている」と著者は言う。日常を潤す日本語の味わい方を知ることができる。

週刊朝日 2016年12月9日号