(c)2024 - TRESOR FILMS - GAUMONT - LAURENT DASSAULT ROND-POINT - ARTEMIS PRODUCTIONS
この記事の写真をすべて見る

 多毛症に悩むロザリー(ナディア・テレスキウィッツ)は秘密を隠し田舎町でカフェを営むアベル(ブノワ・マジメル)と結婚する。当初はアベルに拒絶され傷つくが、ヒゲを伸ばして店に客を集めることを思いつき──? 20世紀初頭に実在した「ヒゲの生えた女性」にインスピレーションを得た作品「ロザリー」。脚本も手がけたステファニー・ディ・ジュースト監督に本作の見どころを聞いた。

【写真】この映画の写真をもっと見る

フォトギャラリーで全ての写真を見る

*  *  *

(c)2024 - TRESOR FILMS - GAUMONT - LAURENT DASSAULT ROND-POINT - ARTEMIS PRODUCTIONS
(c)2024 - TRESOR FILMS - GAUMONT - LAURENT DASSAULT ROND-POINT - ARTEMIS PRODUCTIONS
(c)2024 - TRESOR FILMS - GAUMONT - LAURENT DASSAULT ROND-POINT - ARTEMIS PRODUCTIONS

 本作は実在した「ヒゲの女性」クレマンティーヌ・デレにインスピレーションを得ています。ですが彼女の伝記映画ではありません。初めて彼女の写真を見たとき、なぜか輝きと魅力を感じました。伝記を読み、彼女が凡庸な「縁日の見世物」ではなく、一人の女性として人生を歩もうとした点に惹かれました。夫に関する記述がほとんどなかった点にも興味をひかれ、そこからロザリーと夫アベルという人物を小説的に創造したのです。

 多毛症を隠して生きてきたロザリーはヒゲをはやすことを決め、あるがままの自分を受け入れることでより女性らしくなっていきます。彼女を拒絶していたアベルの心境も次第に変化していく。この変化が最も重要で、私はヒゲの生えたロザリーが初めて登場するシーンの前に二人を会わせないようにしました。アベルの生の驚きをカメラで捉えたかったのです。二人はストーリー同様に徐々にお互いに慣れていきました。ロザリー演じるナディアの顔に一本一本慎重にヒゲを貼っていったように繊細に時間をかけて、です。

 実は本作でむき出しになるのはロザリーではなくアベルの心です。彼は戦争で心と体に傷を負い、人も愛も信じていない。ロザリーが寄り添うことで、アベルは心を解放していくのです。

ステファニー・ディ・ジュースト(監督・脚本)STEPHANIE DI GIUSTO/1978年生まれ、フランス出身。2016年の長編映画デビュー作「ザ・ダンサー」で高い評価を受ける。5月2日から全国順次公開(hair & make up 久保マリ子/撮影:横関一浩)

 誰にとっても「自分自身であること」は難しいものです。いまは自身の多毛症をSNSでアップする人もいます。自由を獲得できたと思う半面、暴力的な攻撃を受けることもある。いつの時代も社会の基準から外れた「違い」が人々に恐怖をもたらし「違うものは潰せ」という心理が働いてしまう。人間の本性は変わっていないと感じます。本作のラストは観客に委ねました。愛を信じているかによって感じ方が違うかもしれません。

(取材/文・中村千晶)

AERA 2025年5月5日-5月12日合併号

[AERA最新号はこちら]