写真・図版(2枚目)| 【下山進=2050年のメディア第51回】放送再編の号砲鳴る。SBI北尾吉孝参戦。放送法の緩和も視野

規制は緩和できると北尾は示唆する

 さて、北尾のプレゼン自体は堀江貴文が提唱していた不動産部門の会社分離、政策保有株の売却(持ち合いの解消)をより具体的にとりいれていて興味深かったのだが、私が注目したのは地方局と地方紙に言及した点だった。地方の消費市場において、地方紙や地方局は重要で、SBIとして資金を注入し、変えていくことを考えているとスライドを交えて述べた。

 確かに地方局と地方紙は過小評価されており、フジテレビと同じように、ずっと社員が旧態依然とした経営を漫然と続けているケースが多い。アービトラージできると私も常々思っていた。アービトラージとは、過小評価されているものを買い、育てて利益を確定するという意味だ。

 ただし、放送局はライブドアがフジを買収しようとした翌々年に、放送法が変えられ、認定放送持株会社に認定されれば、単一の株主が3分の1以上の議決権をもてなくなってしまった。新聞社も日刊新聞法という商法の例外法制で守られており、定款で定めれば株式の譲渡が制限できる。

 なので、北尾がプレゼンで述べたようなフジの改革も、地方局・地方紙への資本参加も、この厳しい規制を変えることなしにはなしえない。政界へのロビーイングと二人三脚でやるつもりなのか、と記者会見で質問した。

 これに対する北尾の答えがなかなかに興味深い。

「当時、放送局がのっとられるということを『大問題だ』と日枝さんが称して、放送法を変えて、認定放送持株会社の条項ができた。しかし、それがこんな不祥事を起こしてスポンサーが離反して今、別の意味で大問題になっている。適切な競争条件におかないとこういうことになる」

「(規制は再び)変わらないものでもない」

 北尾が例に出したのは2021年にSBIが新生銀行を敵対的TOBで買収した件だ。

「あれだけ大きな銀行にTOBをかけるなんて金融庁が許しっこないでしょう(と言われた)。僕は3500億円もの血税を使いながら一銭も返していない経営者をのさばらせていることのほうがおかしいと戦った」。その結果、確かにSBIは金融庁の認可をとったうえでTOBをしかけ成功している。

 ダルトンがそろえた今回の取締役候補案に堀江貴文の名前はなかった。堀江は「私はキャラが立ちすぎてると言われました」と笑っていた。

 いずれにせよ、フジとの折衷案を模索する北尾もダルトンも、今回の会見の株式市場の反応で、今後対応を変えてくる可能性は充分にある。

 まだ二幕、三幕がある。

 はっきりしているのは、2000年代には不可能だった放送業界再編の号砲が今度こそ鳴ったということだ。

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