エッセイスト 小島慶子
エッセイスト 小島慶子
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 タレントでエッセイストの小島慶子さんが「AERA」で連載する「幸複のススメ!」をお届けします。多くの原稿を抱え、夫と息子たちが住むオーストラリアと、仕事のある日本とを往復する小島さん。日々の暮らしの中から生まれる思いを綴ります。

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 小銭、持ち歩いていますか。日本の貨幣の製造枚数は高度成長期以降で最少を更新したそうです。理由はキャッシュレス決済の浸透。私も今や支払いのほとんどはスマホを端末にかざして済ませています。時々、現金しか使えないお店で友人と割り勘した時などにはお釣りの小銭の押し付け合いになることも。

 先日、オーストラリアの家のブタ型貯金箱の中身を銀行に預けに行きました。専用の機械にざらざらと入れたら全部で74ドル20セント。1ドル=89円換算で6600円余りです。前回中身を空にしたのは確か4年ぐらい前、金額は80ドルくらいでした。家族みんなで細かすぎて使わない銀色のコインをダイニングの棚の上にある貯金箱に入れているのですが、大玉のグレープフルーツぐらいの大きさの紫色のブタ型貯金箱がいっぱいになるのに4年もかかったのです。というのも、そもそもあんまり現金を使わないから。オーストラリアの小銭は総じて日本よりも分厚くて重ためなのですが、中でも50セント玉のかさばりようは普通ではありません。500円玉よりも二回りほど大きく、厚みもたっぷりで重たいのなんの。どうしてこんな仕様にしたのかと不思議でなりません。ポケットいっぱいに小銭を持ち歩いていた頃はさぞ邪魔であったろうと思います。

キャッシュレス決済の浸透とともに、使う頻度が下がっていませんか?(写真:gettyimages)
キャッシュレス決済の浸透とともに、使う頻度が下がっていませんか?(写真:gettyimages)

 2014年にオーストラリアに引っ越した時に驚いたのは、電子決済が普及していることでした。当時の私はもっぱらクレジットカードを機械に通す支払い方でしたから、端末にカードやスマホをピッとすればなんでも買えてしまうことに若干の心細さすら覚えたものでした。それが今では日本でも電子決済ばかりです。唯一、神社仏閣を参拝する時だけは小銭を使いますが、これも早晩「かざして参拝」になるのかも。あのお賽銭箱の音がないのは、さすがにちょっと寂しいですね。

◎小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。寄付サイト「ひとりじゃないよPJ」呼びかけ人。

AERA 2023年4月24日号