昼も夜も、ひとりで街歩きをした。
種類は豊富ではないが、人々が日常的に口にする野菜は道端で売られており、シマと呼ばれるトウモロコシの粉末をお湯で練った主食に、肉や小魚をあわせた食事を提供する定食屋は、あちこちで営業をしている。夜になれば、人々はバーで、現地でライセンス生産されているビールのカールスバーグをゆっくりと味わい、ビールは高くて手が出せない人は、チブクと呼ばれるトウモロコシの発酵酒を手に、語らいを楽しんでいる。
街を歩いていても、外国人の私に刺さるような視線が向けられることはなく、昼も夜も、街でたかられることもなかった。一見するかぎりでは、食糧不足に窮しているようには、私には見えなかった。
食糧不足の度合いは、どの程度なのだろうか。食糧不足がほんとうならば、どうやってしのいでいるのだろうか。天候不順が原因ならば、天候が回復すれば、食糧不足はすぐに収まるものなのだろうか。緑豊かなマラウイで、そもそも、なぜ食糧不足が起こったのだろうか。ごく限られた日数の滞在期間中、私の疑問は増えるばかりだった。
食糧が不足していることは、事実のようだ。チロモニの街を歩きながら、すれ違う人に声をかけ世間話をしながら、食糧不足が生じているかをたずねてみると、誰もが頷く。Seiboのデクランによると、マラウイでは、8割を超える国民が自分の畑を持ち、自分で食べる野菜や穀物を自家栽培しているという。マラウイに暮らす人々にとって、畑仕事は日常の一部であるため、天候不順による取れ高不足は、広く、自分自身の問題として受け止められている。
マラウイ北部ムジンバ県のカブク小学校長によると、主食となるトウモロコシの生産量は、自身の畑においてはここ数年、半分から3分の1に減ったという。チロモニでもムズズでも、取れ高が激減したとの声は聞いたが、ゼロになったという声を聞くことはなかった。
また、天候不順の発生具合は地域によって異なり、ある地域では多雨が続き、別の地域では干ばつが発生するなど、地域差が大きいことも、南北ふたつの街を訪ねたことでわかった。
また、たくさんの人と話をするなかで、「肥料を買うこともできない(だから自家栽培を再開できない)」「肥料の問題があるから(だから食糧不足が起こった)」との声を、たびたび耳にした。私は当初、肥料と食糧不足がどう繋がっているのかがわからなかったが、より詳細な説明を求め続けることで、少しずつ、その意味するところが見えてきた。
事態は少々込み入っている。私が現地で聞いた話をまとめてみたい。
かねてマラウイでは、在来種の種と有機肥料を使って農耕が続けられてきた。土地は肥沃(ひよく)で、年に3回の収穫が、恒常的に見込まれてきた。
そこへ、この種を使えば、従来の倍の収穫が得られるとの触れ込みで、外国企業がハイブリッド種の種を紹介。当初は無料で配布されていたらしい。実際にハイブリッドの種を蒔いてみると、確かに倍のトウモロコシが取れた。しかし、このときに取れたトウモロコシを蒔いても、まるで育たない。再び同じ土地でハイブリッド種を育てるには、異なる種類の種を蒔かなければ育たないように、操作された種だった。
再びハイブリッド種の種を求めても、無料なのは初回のみ。人々は、種を購入しながらトウモロコシを栽培するようになっていった。その後も、在来種の4倍、8倍の収穫が期待できるとの触れ込みで、ハイブリッド種の売り込みは続けられていった。
在来種よりもはるかに多くの収穫が得られるものの、ハイブリッドを使い続けるにつれ、土地はどんどん痩せていく。そこで、これまで使われることのなかった化学肥料が導入されるようになった。化学肥料もまた、購入する以外に入手方法はない。自己完結できる自家栽培から、ハイブリッドの種子と化学肥料を購入しながら、自家栽培を続けるスタイルへと、マラウイの農業は変化していった。
マラウイの人々が食糧問題について語るなかで「肥料」と言っていたのは、この化学肥料のことだったのだ。そして、ハイブリッド種を育てるためには農薬も必要だ。しかし、農薬もまた、無料で与えられることはなく、購入しなければならない。