岸田文雄政権が進める「GX(グリーン・トランスフォーメーション)」。気候変動対策は重要だが、その方向性が世界の潮流からまるで外れているとなると問題だ。日本は国際競争から取り残される瀬戸際に立たされている──。
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地球温暖化を巡って世界が目指している「1.5度目標」が瀬戸際に追い込まれている。国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、3月20日に公表した第6次統合報告書で強い危機感を打ち出した。
すでに地球の平均気温は産業革命前から1.1度上昇しており、各国が提出している温暖化対策が実現できたとしても目標達成は困難と指摘。上昇幅を1.5度に抑えるには温室効果ガスの排出量を2035年までに19年比で60%減らす必要があると迫った。
だが、日本の姿勢は極めて悠長だ。政府は今年2月、脱炭素社会への移行を進めるGX実現に向けた基本方針を閣議決定。この方針を実現するための「GX推進法案」が衆院本会議で可決され、現在、参院で審議中だ。法案の柱は脱炭素化に向けた産業界への巨額支援と、国が二酸化炭素(CO2)の排出に課金して削減を促すカーボンプライシング(炭素課金)の導入だ。
政府は、今後10年間で官民合わせて150兆円以上の脱炭素投資を見込む。うち20兆円を国が支出する。今年度から新たな国債「GX経済移行債」を発行し、企業や研究機関を支援するというのだ。
国際環境NGO「FoEジャパン」の満田夏花事務局長がこう語る。
「GX推進法案を提出したのが環境省ではなく、経済産業省であることが重要なポイントです。巨額のGXマネーの資金管理や投資先を経産省が握ることになります。国債も使って企業を支援するのに、温室効果ガスをどれだけ削減するのかといった基準は設けられていません。ですから、脱炭素が見込めない分野・事業であっても、経産省が認めれば投資の対象になり得るのです。実際に原子力、水素・アンモニア混焼の石炭火力発電などにお金が流れていく仕組みになっています」