原発問題に取り組んできた福島瑞穂参院議員がこう話す。
「GXのGは原発で、まさに原発トランスフォーメーションになっています。私は老朽原発を動かすことが最も怖いと思います。なぜ停止期間が運転期間に上乗せできるのか。私たちが夜寝ている間も加齢するのと同じく、原発も運転していなくても劣化しますから、さっぱりわかりません。規制委は厳しく安全審査をすると言いますが、それが形骸化しているから事故がなくならないのです」
04年、美浜原発3号機で冷却水が通る配管が破裂し、140度の熱水が蒸気となって一気にタービン建屋に噴き出した。やけどなどで作業員5人が死亡、6人が重軽傷を負った。事故から間もなく福島氏は視察に訪れた。
■脱炭素軽視では国際競争に敗北
「現場で見たのは、機器が散乱してめちゃくちゃになっている状況でした。原子炉だけではなく、膨大な数の周辺機器も老朽化すれば取り返しのつかない事故につながることを思い知らされました。原発は国債で、防衛力強化法案は増税で莫大なお金を注ぎ込もうとしています。いま、この国の政治は何を大事にしようとしているのか。少なくとも国民の命と暮らしを守ることに、その軸足はないように思います」
原発回帰に加え、水素・アンモニア混焼で石炭火力の延命も図ろうとしている。この期に及んで神奈川県横須賀市で石炭火力発電所2基(計130万キロワット)が建設中だ。日本は30年まで石炭火力発電でアンモニアを20%混焼することを目標としている。
「確かに水素・アンモニアは燃焼時にCO2は出ませんが、製造時にCO2を排出するので、むしろ増えてしまうと言われています。加えて、コストも高すぎるという欠点があります。IEAが予測する50年の世界の電源構成を見ると、再エネは80%ですが、原発は8%、水素・アンモニアは1%です。日本はニッチなところに投資しようとしているわけで、本当に的外れです」(松久保氏)
日本のGXは気候変動対策だけではなく、産業政策としても失敗する可能性があると指摘するのは、前出の諸富氏だ。EUは今年10月から環境規制の緩い国からの輸入品に事実上の関税をかける「炭素国境調整措置(国境炭素税)」を導入する。
「国際社会は本格的に脱炭素経済に移行しているのではないかと、私は見ています。すでにEUの炭素国境調整措置のような動きが出ている。事業に使う電力をすべて再エネにすることを目指す国際企業連合『RE100』の基準を達成しないと取引してくれない時代へと入っていきます。脱炭素化をきちんとやっていない国の製品やサービスは、競争の土俵にも上がれなくなる恐れがある。脱炭素化の遅れは、日本経済に『失われた半世紀』をもたらしかねないのです」
偽りの「岸田GX」が、日本を滅ぼすのだ。(本誌・亀井洋志)
※週刊朝日 2023年4月28日号