■推進官庁が認可 諸外国では異例
京都大学大学院教授の諸富徹氏(環境経済学)はこう語る。
「米国が一緒に後ろ向きだったので日本は安心していたのですが、バイデン政権になってからずいぶん変わりました。米国は30年までに50~52%(05年比)削減することを決定しています。オーストラリアも消極的でしたが、昨年、労働党のアルバニージー政権に代わると、がぜん力を入れ始めた。世界は急速に変わっているのに、日本だけが依然、低迷したままです」
GX推進法案に続いて国会で審議が始まったのが、再エネの導入拡大とともに、原子力の活用を盛り込んだ「GX脱炭素電源法案」だ。原発の運転期間について「原則40年、最長60年」という上限規制を取り払い、実質的に60年超の運転を可能にする。原子力基本法、原子炉等規制法(炉規法)、電気事業法、再処理法、再エネ特措法の改正法を束ねた法案で、運転期間の規定が原子力規制委員会所管の炉規法から、経産省の電気事業法に移される。松久保氏が厳しく批判する。
「運転期間の延長の許認可権が推進官庁にあるのは、日本だけです。20カ国を調べたところ、規制機関が認可しているのが18カ国、政府・官庁が認可しているのはフィンランドとスペインですが、両国とも規制当局が安全性を認めた後に認可します。ちなみにスペインは35年までの脱原発が決定しています。日本は福島第一原発事故の教訓から規制委に移した権限を経産省に戻すのですから、あり得ない話です」
原子力基本法の改正案では、新たに原発を脱炭素に資する電源として明記するというのだ。前出の満田氏が解説する。
「国の責務として原子力の活用、国民の理解促進、立地地域の振興、事業環境整備を進めていくというのです。事業環境整備なんて電力会社が企業努力でやるべきことだと思うのですが、これでは国が丸抱えで面倒を見ると宣言しているようなものです」
今回の運転期間の延長は、規制委の審査や訴訟などで停止していた期間を除外し、その分を追加できるようにする。だが、停止期間中も設備の経年劣化が進むのは明らかだ。