杉山邦博さん(photo 小長光哲郎)
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 先月23日に千秋楽を迎えた大相撲の三月場所。いつもと変わらず花道脇の記者席から土俵に熱い視線を送る姿があった。杉山邦博さん、94歳。1953年、NHKアナウンサーとして入局。数々の名実況を残した伝説の相撲ジャーナリストだ。ある年代以上の相撲ファンで、この人を知らない人はまずいないだろう。

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「いまも年間6場所90日のうち80日以上は間違いなく、現場にいます。『一緒に写真を撮らせてください』などと声をかけられることも多いです。もう71年、私はぶれない姿勢で大相撲をずっと見続けてきた。そこをわかってくださってるんだと思いますね。ありがたいことです」

 穏やかな笑顔でそう話す杉山さん。しかし、「いまの大相撲をどう見ていますか」と水を向けると一転、厳しい表情に。「ぶれない男」は堰を切ったように語り始めた。

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──三月場所は大の里(大関/12勝3敗)と高安(前頭4/12勝3敗)との優勝決定戦にもつれこみ、大の里が3度目の優勝を飾りました。

 盛り上がったいい場所でした。過去に何度も優勝を逃している高安への声援はものすごく、本人は悔しかったでしょう。一方の大の里は14日目、千秋楽と、攻めに徹した相撲で申し分なかった。入門から2年たらず。次の五月場所にはもう横綱への期待がかかるんですから立派です。今後10年は相撲界を引っ張る存在になるでしょう。

 残念だったのは新横綱の豊昇龍(横綱/5勝5敗で途中休場)です。場所前に本人が「どんなことがあっても休まない」と公言していただけに、失望しました。荒っぽく強引すぎる取り口が気になりました。右ひじの故障はやや慢性的なもので、その程度で休場した横綱を私は過去に知りません。「休場は横綱の特権」のように思われたのは大きな誤算だったと思います。五月場所は厳しい目で見られます。責任ある場所にしなければなりません。

──初場所で負け越してカド番だった琴桜(大関/8勝7敗)は、勝ち越したもののぎりぎり、でしたね。

 気の弱さが気になりました。いわゆるボンボン(祖父は第53代横綱・琴桜)などと言われますが、厳しさがもう少し欲しい。塩を取りにいって時間いっぱいで振り向くときに見せる険しい形相が話題ですが、肝心の相撲内容にその厳しさが欲しい。彼は右四つなんだけど、最近は無理に右をこじ入れようとして腰が浮いてしまうんです。原因は立ち合いの踏み込みが足りないこと。昨年の十一月場所で優勝したときの相撲に立ち返れば間違いなく横綱になれるし、なってくれなきゃ困ります。

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