
漢方というと慢性的なからだの不調に効くというイメージが強いですが、メンタル不調にもよく効くといいます。30年超にわたり漢方診療をおこなう元慶應義塾大学教授・修琴堂大塚医院院長の渡辺賢治医師は、「自律神経が乱れている人には腹部動悸という症状が特徴的に見られる」と話します。
メンタル不調に対して漢方という選択肢もあるということを、より多くの人に知ってもらいたいと、渡辺医師は著書『メンタル漢方 体にやさしい心の治し方』(朝日新聞出版)を発刊しました。同書から、適応障害と診断された実際の患者の症例を抜粋してお届けします。
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【症例① 55歳・女性・出版社勤務】締め切りに追われる生活で適応障害に
出版社で編集の仕事に携わるAさんは、9年前、不安感や頭痛で悩むようになり、心療内科のクリニックで適応障害と診断され、抗うつ薬を処方されました。
薬の効果はありましたが、長期間抗うつ薬を飲み続けることに不安を感じ、約2年前に自己判断で薬をやめてしまいます。突然長年飲んでいた抗うつ薬をやめたために離脱症状が起こり、今度は不眠に悩まされるようになります。
指先やひざのしびれ、腕の痛みといった症状もあり、体重は42㎏から36㎏にまで減少。そこで、再びクリニックを受診し、抗うつ薬や睡眠薬を処方してもらいます。また、ちょうどその頃に閉経したので、それが不調の原因とも関連するのではないかと考え、婦人科にも通院し、ホルモン治療を開始します。
仕事仲間からの紹介で当院を受診したときには、会社を休職していました。しびれや痛みが続いていて、のどが詰まったような違和感(ヒステリー球)もあるとのこと。また、朝は比較的調子がいいけれど、夕方になるとエネルギー切れになるということでした。
診察したところ腹部動悸があり、自律神経の乱れがひどい状態でした。つねに締め切りに追われる生活で、緊張状態が続いていたのかもしれません。
そこで自律神経の乱れや抑うつ状態に効果的な竜骨湯(りゅうこつとう)を処方。徐々に調子がよくなり、週に1回から職場に復帰しました。一時食欲が落ちて、胃腸の機能が低下していたために、漢方薬を精神的な症状のほかに胃の不調にも効く茯苓飲合半夏厚朴湯(ぶくりょういんごうはんげこうぼくとう)に変更しました。