
注目対局や将棋界の動向について紹介する「今週の一局 ニュースな将棋」。専門的な視点から解説します。AERA2025年4月21日号より。
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年度初めの4月1日。羽生善治九段(54)は日本将棋連盟の次期役員選挙に立候補せず、会長職を1期2年で退任する意向を示した。
「理由としては昨年の創立100周年の事業が終わったこと、自分としてできる事はやりきったと感じている事、次の若い世代に将棋界を委ねたいと考えているからです」
羽生はX上でそうポストした。6月には任期満了を迎え、これから決まる新会長が、あとを引き継ぐことになる。
連盟の伝統は自主的な運営だ。会長は羽生まで18人、すべて棋士自身が務めてきた。
羽生は1996年に将棋史上初の七冠独占を達成。現在に至るまでスーパースターとして、将棋界の顔であり続けてきた。アマチュア向けの免状には羽生会長、藤井聡太名人(七冠)が連名で署名するようになり、申請数は飛躍的に伸びた。それはもちろん、両者の人気ぶりを示すものだ。
2024年、羽生は将棋界の中心となって、東京と大阪、それぞれの新将棋会館建設も成功へと導いた。「やりきった」というのは、羽生の偽らざる実感なのだろう。
羽生とよく比較される大山康晴十五世名人はトップクラスのプレイヤーであり続けながら、12年の長きにわたって会長職を務めた。羽生もそうした長期政権になるのではないかとイメージしていた人にとっては、会長退任は残念なニュースかもしれない。
一方で、ほっとしているファンもまた多いのではないか。羽生はスター棋士として今後も多くの公務を引き受け続けるだろうが、会長の重責と激務から解放されればその分、いまより対局に集中できるはずだ。
昭和の名棋士・原田泰夫九段は会長退任後、40代でB級2組からA級へと復帰した。現在50代の羽生が同じことを成し遂げても、なんら不思議ではないだろう。(ライター・松本博文)
※AERA 2025年4月21日号