ジェンダーに絡む慰留発言は違法性があるケースもある(photo 写真映像部)

女性どうしであってもセクハラ成立

 一方、ジェンダーに絡む不適切な言動が会社側から発せられた場合、裁判で争えば違法性を問える可能性もある、と師子角弁護士は説く。例えば、辞意を伝えた女性上司から「こういう辞め方をされると、やっぱり女は根性がないと言われる。働く女性のためにならない」と言われた女性のケースなどは、女性どうしであってもセクハラが成立する余地があるという。

「このような翻意の迫り方は、対象となっている女性労働者に不快感を与えるだけでなく、こうした場面を見聞きする他の女性従業員に対しても能力の発揮に支障をきたすほどの強いプレッシャーを生じさせます。セクハラにも該当する不適切な言動であり、どれだけの慰謝料額が認められるかという問題はあるものの訴訟で問題にしてもおかしくはありませんし、社内の相談窓口に相談すれば然るべき対応が取られるとも思います」

 同業他社への転職を禁止する企業も少なくないが、これはどうなのか。

「代償措置や時間的・場所的な限定もなく同業他社への転職を禁止する合意は、公序良俗に反するとして民法上無効とされる傾向にあります」

 もちろん、不正競争防止法で定められた営業上・技術上の情報に該当する「営業秘密」を転職先の競合他社に持ち込むのは違法だが、転職そのものを制限する法的根拠はないという。

労働基準監督署などと連携

 行き過ぎた慰留や退職妨害を受けたとき、弁護士に依頼すると、どのような介入を行ってもらえるのか。

「弁護士は代理人として退職の意思表示を伝えたり、有給休暇の取得のサポートをしたりして退職までのプロセスを伴走することになります。引き継ぎ期間中にハラスメントが行われた場合には速やかに抗議して事態の是正を図り、会社側から法的に誤った意見が寄せられた場合には的確に反論を行い、必要に応じて労働基準監督署などと連携しながら事態に対処します」

 さらに、弁護士の強みとして師子角弁護士は「使者としてやりとりを媒介するだけではなく、法的な知識を駆使しながら交渉を行える」ことを挙げる。

「会社は必ず辞められることもあり、行き過ぎた慰留が訴訟事件化する例は、それほど多いわけではありません。しかし、言動があまりにも悪質である場合には、ハラスメントを理由に損害賠償請求訴訟を提起することもできます」

 一方、会社側にはこうアドバイスする。

「強引に慰留したところで従業員のモチベーションを保つのは困難なことが多いのが現実です。訴訟に発展した場合、レピュテーションリスク(企業に関するネガティブな評判や噂が拡散され、ブランド価値や信用低下を招くリスク)も生じます。会社としては日頃からセクハラやパワハラが生じないようにすることはもちろん、行き過ぎた慰留に対しても気を配っておいたほうがよいでしょう」

(構成 AERA編集部・渡辺 豪)

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