たうち・まなぶ◆1978年生まれ。ゴールドマン・サックス証券を経て社会的金融教育家として講演や執筆活動を行う。著書に『きみのお金は誰のため』、高校の社会科教科書『公共』(共著)など

 最近では、石破内閣が「高付加価値創出型」経済を目指しているという。高付加価値とは、従来の商品やサービスに新たな価値を加えて高い価格で販売することだ。

 確かに企業側にとっては、高価な商品を売って利益を増やしたい。しかし、消費者側の立場の私たちは、本当に高価な商品の購入に回すお金を増やしたいのだろうか? 今求めているのは、安心して食べられる米、十分なケアを受けられる介護施設、陥没しない道路といった、生活の基盤となるものばかりだ。

 高付加価値の追求は重要だが、それが単なる「高価格」へのシフトにならず、人々の生活の満足度や安心感を高めるものであってほしい。介護現場の人手不足を埋めることにお金を使う発想も必要だ。

 GDPといった経済指標は、どれだけお金が使われたかを示す指標にすぎない。高齢者をはじめ、私たちがどれだけ人間らしく幸せに暮らせているかを表すものではない。

 舞台「脳天ハイマー」で、介護される老人が人生に悩む主人公に放つ台詞がある。

「正解ある人生なんてつまんねえぞ。いっぱい悩めばいい」

 石破さんにもいっぱい悩んでほしいが、そのためにはまず現場の声に耳を傾けてもらいたい。

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