もちろん漢方の限界もあります。重度のうつ病や統合失調症などは、西洋医学による治療が欠かせません。最近の治療薬の進歩によって、短時間で楽になる点は西洋薬のほうがすぐれています。
漢方治療は、ほとんどの場合、西洋薬と併用しても大丈夫なので、どうしようもなくからだが重い場合などには、迷わず精神科または心療内科で薬をもらってください。コントロールがある程度できてからでも漢方治療は遅くありません。精神科・心療内科の医師と連絡をとりながら、西洋薬を徐々に減らしていき、漢方治療のみにしてから最終的にすべての治療を終えることを目指します。
その場合に欠かせないのが、医師同士のコミュニケーションです。少し前だったら、「漢方なんかまやかしだからすぐにやめなさい」という医師もいましたが、今や漢方薬を日常的に用いる医師は9割近くいます。漢方は絶対だめだ、という医師も減ってきました。
日本は西洋医学、東洋医学どちらか、というのではなく、両方のいいところをとって治療することができる、数少ない国です。江戸時代の大槻玄沢という蘭方医は、西洋医学と東洋医学の長所をとって、短所を補い合う「採長補短」を提唱しました。その精神は、現代日本にも脈々と息づいているのです。

※『メンタル漢方 体にやさしい心の治し方』(朝日新聞出版)から一部抜粋