
イライラする、やる気が出ない、月曜日がつらいなど、西洋医学で病名がつかないようなこころの不調でも漢方では治療の対象になります。30年超にわたり漢方診療をおこなう元慶應義塾大学教授・修琴堂大塚医院院長の渡辺賢治医師は、「漢方では患者さんの話をよく聞くことを大切にする」と話します。
【写真】渡辺賢治医師の新刊「メンタル漢方 体にやさしい心の治し方」はこちら
メンタル不調に対して漢方という選択肢もあるということを、より多くの人に知ってもらいたいと、渡辺医師は著書『メンタル漢方 体にやさしい心の治し方』(朝日新聞出版)を発刊しました。同書から抜粋してお届けします。
* * *
初診で30分〜1時間話を聞く漢方
漢方では、初診に30分〜1時間程度の時間をとり、患者さんの話を聞きます。初めて私の診療所を受診する患者さんは、とても早口で話し出す方が多いです。「医師は忙しいから時間をかけてはいけない」という意識があるのかもしれません。「時間はあるので、そんなに早く話さなくても大丈夫ですよ」とお伝えすると、安心してゆっくり話し始めます。漢方では患者さんの話をよく聞くからこそ、不調の原因を見つけることができ、根本的な治療が可能となるのです。
また、うつっぽい症状はあるけれど、うつ病の診断基準には当てはまらないような場合でも、漢方では治療の対象になります。イライラする、やる気が出ない、月曜日がつらいなど、西洋医学で病名がつかないようなこころの不調を抱えている人は、多くいます。
たとえ診断がついても、西洋医学では有効な治療法がないようなこころの病気にも、漢方は向いています。例えば記憶の一部分が飛んで思い出せなくなったり、自分や世界についての現実感がなくなったりする「解離性障害」は、効果的な治療法がありませんが、漢方治療でうまくいくことがあります。
こころとからだの不調が合わさって症状が出ている場合も、漢方が得意とするところです。こころに不調を抱えている人は、からだにも症状が出ていることが少なくないのです。西洋医学ではこころの不調は精神科・心療内科、からだの不調は例えばおなかが痛ければ消化器内科というように、症状に合わせたほかの診療科を受診することになります。漢方では、こころの不調もからだの不調も同時に治療できるのです。