中学受験した娘に手をあげてしまったことを後悔する男性(撮影/平尾類)

娘は悲しそうな顔をしていた

 最初は「友達が増えて楽しい」と話していた長女だったが、成績は伸び悩み、小学6年になるとバスケをやめることになった。好きだったバスケをやめた長女は明るさを失い、口数が少なくなった。妻はここぞとばかりに勉強時間を増やしたが、苦手な算数と理科の点数がどうしても上がらない。妻がずっと見守る環境の中、長女はそれでも机に向かって勉強していた。

 だが、受験を2カ月後に控えた12月初旬に“事件”が起こる。長女が小学校から勉強の予定時間より大幅に遅れて帰ってきた。男性が「何をやっていたんだ」と問いただすと、「帰りに友達に誘われてバスケットボールをしていた」と言いにくそうに答えた。

 この言葉に男性は激高。「そんな暇があるなら勉強しろ!」と長女の頭を叩いてしまった。

「叩いた後に娘が無言でこちらを見つめたまま、悲しそうな顔をしていたんです」

 男性は叩いたことを後悔したが、それ以降は「勉強するから食事を部屋に持ってきて」と露骨に接触を避けるようになった。そして1カ月後……長女の髪の毛がところどころ抜け落ち、円形脱毛症になっていることに気づいた。

「すでに心身の限界を超えていたのだと思います。教育虐待ですよね……。結局、一番行きたかった大学の付属中には行けず、第2志望の私立中に今年の4月から通います。娘は『やっと終わった』と漏らし、春休みに入ってからは友達と毎日バスケをやっています。円形脱毛症も治りましたが、もうあんな思いはさせたくありません。私とは以前のように明るく話してくれるまでには戻っていませんが、返事はしてくれるようになりました」

【後編】では優秀な兄と比較され続けたことで“壊れてしまった”男児のケースを紹介する。

(平尾類)

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