加藤晴彦さん(撮影/写真映像部・和仁貢介)

近所にいた「昭和のオヤジ」みたい

 そうした大人たちに怒りを覚えるのは、加藤さん自身が実際に“被害”に遭ったこともあるからだ。

「小学校の運動会での出来事ですが、下駄箱で靴を履いていると突然『あれ! 晴彦君、元気?』と言われて見上げると、立っていたのは全く知らない誰かのお父さんでした。初対面なのにいきなりタメ口で声をかけられ、あとは知らんぷりされて、その場を去っていきました。あまりにクレイジーな行動に一瞬ぽかんとしてしまいましたが、非礼な行いをする人間には、必ずしっぺ返しがくると思っています」

 礼儀やあいさつを大事だと強く感じてずっと生きてきた加藤さんだからこそ、今の時代の子どもたちにもそういった社会性をしっかり学んでもらいたいと考えている。

「自分の娘と息子には、『もし怒られるようなことをしたときは、まず自分の側になにかあったんじゃないか考えろ』と徹底して言っています。昔はまず社会や地域のルールがあり、その上で自分や家族の考え方やルールがあったが、今はその線引きがなくなってきてしまっていると感じています」

 そして、「あいさつはされるものではなく、するものです!」と語る加藤さん。自身が幼稚園にお迎えに行ったときは、子ども、先生、保護者へ大きな声であいさつをする。あいさつを返してくれた子には「偉いね!」「気持ちがいいね」と褒める一方で、あいさつをしない子どもがいたら、顔を覗き込んでもっと大きな声であいさつをすることにしている。

「僕って近所にいた昭和のオヤジみたいな感じなんです。でも、あいさつから始まるコミュニケーションで地域は作られていて、その地域全体が子どもたちを育てていたと思うんです。今は過保護どころか過干渉な親が多くて、自分の子どもの顔色をうかがっているような状況でしょう。他人の子どもに注意をしてくれる人なんていないんです。そもそも礼儀について注意するのって、そこに愛があるからなんです。だからこの時代でも、ちゃんと愛を持って言えば伝わるんです。今の子どもたちは愛を受けることも知らないし、愛をかける人もいないからおかしくなっちゃうと思うんです。それを少しでも変えていきたいなって思います」

 そう語る言葉には、「人間・加藤晴彦」を貫いてきた加藤さんだからこその“熱”がこもっていた。

(藤井みさ)

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