
日本を代表する企業や組織のトップで活躍する人たちが歩んできた道のり、ビジネスパーソンとしての「源流」を探ります。AERA2025年4月7日号では、前号に引き続き野村ホールディングス・永井浩二会長が登場し、「源流」である初任地の高松支店がある香川県を訪れた。
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仕事の具体的なイメージはなく、会社の雰囲気や採用担当者の人柄にひかれて入社を決めたが、与えられた仕事の軌道にうまく乗れず、早々と会社を辞めようかと思ったことがあった。現代の若者にも、入社1年目で転職を考える例が多い。入社前に聞いた話や紹介情報から描いた「想像」と、入社して目の当たりにした「実像」に、かなりの乖離があるからなのだろう。
でも、そこで辞めてしまうのか。いまのトップの世代には、現代の若者に多い「転職の繰り返し」へ陥った例は、少ない。まだ転職が不利な処遇を生む時代だったことで我慢強かった面もあるが、「実像」で出会った客や先輩から、仕事への張りや愛着が生まれた例を多く聞く。永井浩二さんも、その一人だ。
企業などのトップには、それぞれの歩んだ道がある。振り返れば、その歩みの始まりが、どこかにある。忘れたことはない故郷、一つになって暮らした家族、様々なことを学んだ学校、仕事とは何かを教えてくれた最初の上司、初めて訪れた外国。それらを、ここでは『源流』と呼ぶ。
この1月、初任地の高松支店がある香川県を、連載の企画で一緒に訪ねた。二度までも「会社を辞めようか」と思ったものの、客から得た真っ直ぐな手応えが「誠意をもって相手と向き合い、正しいと思うことを貫けばいい」とする永井さんのビジネスパーソンとしての『源流』を、生んでくれた地だ。
住所録で電話をかけ面談の約束を取り新規客を探す「開拓」
高松空港は、小雪がちらついていた。車で向かったのは、高松市から約20キロ西の坂出市の警察署前。1981年4月に野村證券へ入社し、赴任して2カ月目のある金曜日、この地の医師宅を訪れたのが最初に「会社を辞めようか」と思った日だ。
新入社員はまだ客がいないから、株式や国債の売買をしてくれる新たな客を探す「開拓」から始める。会ったこともない人に、各種の住所録をもとに電話をかけて面談の約束を取り、自転車やバスで街を巡って訪ねる「飛び込み営業」だ。医師とは、電話で面談の約束が取れた。
警察署前のバス停に着き、医師宅へつながるあぜ道を探したが、半世紀近くの間に宅地開発が進み、みつからない。