龍谷大学農学部4年の岸本司さん(手前)は水問題に興味を持ち、浄水場などの運転、補修を行う「クボタ環境エンジニアリング」に就職する(写真:編集部・井上有紀子)
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 農学系学部の新設・再編が全国で相次いでいる。経済成長が停滞するいま、堅調な産業として注目されているという。AERA 2025年3月31日号より。

【表】2010年以降に新設された農学系学部学科はこちら(全2枚)

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 全国の農学系学部でも、生命科学、環境、食、情報、地域などさまざまなテーマを打ち出している。

 山梨大学生命環境学部は、地域と食品産業と連携して、特産品のワイン研究をしているのが特徴的だ。福島大学農学群食農学類は、福島第一原発事故からの農業の再生・復興への貢献を目指している。農業ジャーナリストの山田優さんはその背景を語る。

「他分野との融合により、農学の領域が拡大しています」

 かつてはバイオテクノロジーと言えば優良な種子作り、品種改良が中心だった。

 だが、いまは最先端の他の学問と結びつくことで成果を出しているという。

 例えば、「農学×医学」の分野では、農学部が研究してきた微生物から、医薬品が生まれている。話題の腸内環境も、農学部が研究してきた腸内細菌、乳酸菌が鍵となっている。乳酸菌の研究も市場も広がっている。「農学×地域課題」が学べる大学も多い。

「過疎化する地域をどう再生するかは、いま重要な課題の一つです。農業と地域おこしに焦点を当てた研究では、明治大学農学部の小田切徳美教授がトップを走っています」(山田さん)

 こうした実学的な学びが功を奏して、農学部の就職先は幅広い。

 2015年、国内で35年ぶりに「農学部」を開いた龍谷大学では、23年度の農学部の実就職率97.5%は学内でトップ。種苗会社、JAといった農業関係はもちろん、伊藤園、伊藤ハム、山崎製パンなどの食品メーカーへの就職者が多かった。

 また、金融、情報通信業への就職も多かった。

新卒で新規就農も

 農学科の玉井鉄宗准教授は言う。

「これから農業や環境に関わらない企業はないなかで、農学部の学生が求められているのではないでしょうか」

 もちろん“本流”を極めていく学生もいるという。新卒で新規就農し、比較的収益率が高いトマトとイチゴを作り、しっかり稼いでいるという。とはいえ、いま話題なのは「令和の米騒動」。米が安すぎるという課題が浮き彫りになる中、玉井准教授は稼ぐ仕組みの研究にも視野を広げている。

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