鏡さんが監修を手がけた全12冊の『タロットの美術史』シリーズ(創元社)は図像を通じてタロットの普遍性と多様性を紹介。
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 タロットと言うと占い方法のひとつという印象があるが、コロナ以降世界的に大きな注目を集めている。西欧のみならずアジア圏でもタロットイベントが開催され、いまやコミュニケーションツール、そしてアートまで領域を広げている。その前線をリポートする。

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「タロット=占い」はごく最近ついたイメージ

 タロットとはいったい、何なのか。そのルーツについて、日本のタロット研究の第一人者・鏡リュウジさんに話を聞いた。

「今でこそタロットは“占い”のイメージが強いですが、実はそうではない歴史の方が長いということをご存じでしょうか。タロット=占いというイメージは19世紀、つまりたかだか100年くらい前についたもので、実は占いの用途以外で使われてきた歴史の方が長いんです」

 これは多くの人のイメージを覆す証言ではないか。神秘的なモチーフが描かれたタロットカードはそもそも、占いのための道具として生まれたものではなかったということだ。

「タロットの原型は15世紀半ば、イタリアで貴族たちが興じていたカードゲームに端を発します。これがまさに4つのスート(ハート・クラブ・スペード・ダイヤ)から成るトランプとの原型となったわけです。そこにゲーム性を高めるべく、切り札として加えられたのが、〈正義〉〈死〉〈運命の輪〉などのタイトルがつけられた寓意画。これがタロットのルーツなのです」

 寓意画とは形のない概念を絵にしたもの。例えばタロットカードの〈正義〉は、裁きの剣と公平さを表す天秤を持つ女神の姿で「正義」のイメージを表している。切り札として加えられたということは、トランプで言うところの〈ジョーカー〉を増やすようなものだろうか。

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