なぜタロットは、人の心を惹きつけるのか

 これまでもっぱら自分の心の内を探るために用いられてきたタロットが、自分を外の世界に発信するための触媒として用いられている。ではなぜそれが「タロット」でなければならなかったのか。歴史の中でこれほど立ち位置を変えながら、それでも現代までタロットが途絶えることなく生き続けている理由は何だろう? 鏡さんに聞いてみた。

「タロットの絵柄が、それだけ多くの人の心を動かすからではないでしょうか。人は見たいものを見ます。それがこうして500年も続くということは、たくさんの人の“見たいもの”が、このタロットにつまっているということ。そしてそれが現在進行形で進化を続けている。他に類のない、きわめてユニークなアイテムだと言えるでしょう。

 ルネサンス貴族の高価な遊戯札であると同時に、民衆の素朴な賭博用具でもあって、同時にオカルト的な宇宙観の地図でもあり、自分自身を映し出す心理学的ツール、そしてコミュニケーションのためのチャンネルでもあり、昨今ではハイブランドのモチーフにもなり、さらにはマイノリティの声を代弁するメッセンジャーでもある。

 15世紀からほとんど構図の変わらないカードの“定型”が、これほど多様な顔を持つこと自体、タロットのはかりしれない魅力のひとつと言えるのではないでしょうか」

 未来を予知したり、あの人の気持ちをのぞいたりする「占い」の道具だったタロットが今、その枠を超えて現代に新たに再生しようとしている。

 取材・執筆:山田奈緒子(マイカレ)

[AERA最新号はこちら]