メッセージをのせる触媒としてのタロット

〈愚者〉〈死神〉〈運命の輪〉……タロットに描かれる魅力的な概念を前にすると、人はその型を借りて自分なりに表現してみたくなったり、何らかのメッセージを託したくなるようだ。鏡さんはこう語る。

「最近では、意図的にタロットの意匠を、新たな価値観を表現し世に訴えるためのメディアとしても用いる動きも目立つようになっています。タロットの登場人物のほとんどを女性に置き換えたフェミニズム的なタロット、あるいはすべて男性に置き換える『ゲイ・タロット』、従来は男女のカップルを描くと相場が決まっていた〈恋人〉のカードを、男女・男性同士・女性同士の3種類挿入する工夫、あるいは黒人の世界を描くもの、ハイチなどの貧困社会を写真にしてタロット化したもの……タロットの普遍性を逆手にとったメッセージ性の強い作品も多く出ています」

 2月に「東京・タロット美術館」で開催されたトークイベントのために来日していた『タロットと占術カードの世界』(原書房)の著者であり、フランスのタロットリーダー、研究者であるレティシア・バルビエさんは言う。

「カードに描かれたものは変わらなくても、そこに与えられる意味は時代によって変遷し、常に再解釈されてきました。それは今も変わりません。例えばLGBTQ+を題材にしたタロットや、離散していくアフリカの民族をテーマにしたタロット、有色人種や貧困問題を題材にしたタロットなども多数作られています。ある種マイナーとされ、その声がなきものとされていた人々がタロットを介して自分を表現することで、レジリエンスを高めることにつながっている。つまり78枚のカードが、声なき人のメッセージをより多くの人へ届ける“神秘的な拡声器”にもなっているのです」

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