14世紀に描かれた〈正義の寓意〉(左)と、タロットカードの〈正義〉(右)。『タロットの美術史』(創元社)より

 本来のタロットはゲーム用カードであり、当時の人々が愛でていた寓意画、つまりアートでもあった。この時点ではまったく占い的要素のなかったタロットが、いつどのように「占い」へと変容していったのだろう。

「18世紀後半、ヨーロッパに空前の“エジプトブーム“が起こりました。モーツァルトのオペラ『魔笛』にもエジプト風の意匠が登場するでしょう? そんな時代に“タロット=エジプト起源説”が生まれます。現在の知見からはこれは誤りなのですが、タロットが古代エジプトの神秘的な叡智を暗号化したものだという見方が広がり、多くのオカルト思想家たちがそれまで単なる遊戯札であったタロットに取り組み、“本来の”タロットを再現しようとするようになります。現在のタロットにスフィンクスなどの絵柄が見られるのはその影響を受けてのもの。さらにはタロットとユダヤの秘儀であるカバラも結びつけられるようになっていきます。結果、タロットはさまざまなオカルト思想の集約物、秘教的な世界観の絵による百科全書あるいはマップのようなものに変容していきます」

 つまり、タロットの持つ神秘的なイメージは、後から付与されたものということになる。その結晶として誕生したのが、世界でもっともポピュラーなタロット『ウエイト=スミス版』だろう。

「タロットは19世紀末に大陸から英国へと渡り、当時の魔術結社・『黄金の夜明け団』の教義を取り入れて神秘主義者のアーサー・ウエイトがパメラ・コールマン・スミスに描かせたタロットを制作しました。これが『ウエイト=スミス版』です。一見、優美で穏やかなタッチの絵柄ですが、その中には秘教的なエッセンスがふんだんに暗号化されています。オカルト化されたタロットの代表とも言えるでしょう」

 これが定番として世界中でヒットし、現在の「タロットブーム」を支えていることは間違いない。そして今、もっともタロットが熱く盛り上がっているのは、東南アジアだという。

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