彼によると、トクリュウによる犯罪、つまり特殊詐欺は、台湾ではかなり昔から行われていたという。一説には中国から始まったとも言われているが、「もともとは台湾から中国本土に特殊詐欺を仕掛けていたのが最初。中国本土から騙し取ったカネは何兆円にもなるはずだ」。
また、報道されているミャンマーの国境地帯での特殊詐欺拠点について聞くと、こう説明した。
「海外で特殊詐欺のかけ子などの拠点を用意するのは、その国のマフィアの役割。それもひとつの組織ではなく、いくつかの組織が、拠点づくりや渡航費用といった初期投資などを分担するのが通例だ」
警察に賄賂を渡すのもその国のマフィア
さらには、かけ子らが寝泊まりする宿舎の準備や警察に賄賂を渡すのもその国のマフィアの仕事だという。
「そこに、台湾マフィアや中国マフィアが介在しているケースが多い。(今回問題となっている)ミャンマー国境地帯の『KKパーク』の背後にいるとされているのも中国マフィア」
日本では「ルフィ」を名乗る一味が強盗の指示を出していた場所がフィリピンだったが、日本の反社会的組織がかかわってくるのは後のほうで、人の手配や名簿の入手などを頼むのだという。つまり、日本の反社は、台湾など海外のトクリュウに限って言えば、「下請け」になる。
筆者はこうした実態など、さまざまな話を聞いて帰国したのだが、実際にその現場をこの目で確認したいという思いもあり、半年後に再度台湾を訪れることになった。
そのきっかけは、SNSで流れてくる特殊詐欺とみられる案件に応募したことだった。秘匿性の高いテレグラムでのやり取りになったのだが、少しでも安全を担保するために、前出のA氏に頼んで再度、通訳役としてグループに加わってもらうようお願いすることにした。A氏には、決して加害者になることはない、ということを伝えたうえで了承してもらった。
この時は台北市近郊の桃園空港から台中市内に行くよう指示された。高速バスで台中まで行き、そこから指定されたコンビニの前で待っていると、一人の男が近寄ってきた。男は「Nice to meet you」と柔らかい表情で声をかけてきた。