さらに、日本の裏社会の情報を知りたい、という話だったのが、「オンラインカジノのサポートをしてほしい」という依頼に変わった。つまり、日本人に向けたオンラインカジノをやるにあたり、その手伝いをしてほしい、という内容のようだった。

 日本ではスポーツ選手や芸能人らが関与したことで大きく報じられたが、オンラインカジノは、日本でやることは違法だ。筆者はA氏に、そのことを依頼者側に伝えるように言い、すぐに安全な場所に移動することにした。

 いくら親日の台湾とはいえ、裏の世界の連中が現れて、強引に連れ去られでもしたら取り返しがつかない。危険な雰囲気を感じた時は、無理をしてはいけない。

「半グレグループのリーダーを紹介する」

 カフェの目の前にある別のホテルを予約し、荷物を持ってすぐに移った。さっきまでいた目の前のホテルをロビーから観察していると、30分くらい経ったころ、いかにも、という大きな黒塗りのバンが車寄せに止まった。

 中から現れた体格のいい3、4人の男が慌てた様子でホテルに入り、10分ほどして出てきた。A氏と筆者を探しに来た連中だろうと思い、後でA氏に確認すると、その臆測は当たっていた。

 筆者はこのまま何もせずに帰ることは避けたかったので、当初の依頼とは逆に、台湾の裏事情に詳しい取材対象を探してほしい、と半ば強引にA氏に頼み込んだ。

 機会はその2日後に訪れた。A氏から、

「台湾の有名な半グレグループのリーダーを紹介する」

 との連絡があった。

 台湾では半グレを「街頭」と呼ぶ。黒社会(チャイニーズマフィアなど犯罪組織の総称)の一端を担っており、街頭の力なくしては回らないと言われているほど力とカネを持っている。その街頭が本拠としている地域は、台中だった。さっそく、通訳役のA氏と台湾新幹線で向かった。

 1時間かからないで到着し、駅を出ると、「サブリーダー」という人物が迎えに現れ、リーダーのいる事務所に向かった。

 事務所で会ったリーダーは40歳前で、格闘技の経験者のようなオーラがあった。彼から、台湾のトクリュウの事情、ミャンマー国境地帯にある特殊詐欺拠点の背景、日本の犯罪組織の関与などを聞くことができた。

台湾の半グレ「街頭」のリーダー。格闘家のような体格をしていた
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日本の反社は「下請け」