
あいさつ程度の会話をし、今回の案件の関係で迎えにきた人物であることがわかると、そこから一緒に徒歩で宿舎に向かった。
宿舎は大きな一軒家のような建物で、中に入ると数部屋あり、各部屋の入り口や廊下のいたるところに防犯カメラが設置されていた。玄関にはひときわ大きなカメラがついていた。部屋は一人ひとりに与えられ、6畳ほどの広さにテレビ、シャワー、トイレがあった。
A氏が間に入っている効果か、組織の連中は筆者に対し、パスポートの提示をしつこく求めてはこなかった。荷物の下にある、と説明したら後でいいということになった。
筆者は喫煙家なのだが、今回はそれがいいほうに役立った。屋内は禁煙だから外で吸うという理由で、部屋や宿舎の扉についているロック錠の番号を聞き出し、屋外に簡単に出ることができた。これでこの場所からはいつでも逃げられると確認できた。

20畳の広さに4、5人の日本人らしき男たち
“仕事”は翌日以降に入る予定だったが、その前に仕事場を見ておきたいと相手側に伝えた。組織の人間は簡単にOKを出し、そこからタクシーに乗って、回り道などをしながら車で10分くらいのビルに着いた。
10階建ての8階にあり、他のフロアにはテナントが入るごく普通のビルだった。見た目からは、怪しさや犯罪の雰囲気などはまったく感じられない。
現場に行くと、20畳くらいの広さだろうか、そこには4、5人の日本人らしき男がいて、手元の表などを見て電話をしたり、パソコンを見たりしていた。壁には、エクセルで作ったような表が貼ってあった。
部屋の奥まで入ろうとしたり、電話している人物に話しかけたりするのは止められた。隙を見て、近くにいた男に「何歳?」と声をかけると、「19歳」と答えた。そこに組織の男が寄ってきて、「もういいだろ」という感じで外に出るよう促された。抵抗して、その場でそのまま“仕事”をさせられるのは避けたかったので、素直に従った。