
AERAで連載中の「この人のこの本」では、いま読んでおくべき一冊を取り上げ、そこに込めた思いや舞台裏を著者にインタビュー。
【写真】ジェンダーの「どういうこと?」を膨らませてくれる一冊
ジェンダーの観点から小説、ドラマ、漫画などを紹介し、フェミニズムとどう向き合えばいいのか、社会の価値観を形作っているのは誰か、家父長制に抵抗するには、といった考察を深めていくエッセイ集。マジョリティー男性である自分の立ち位置を再三確認しつつ、内省から社会の問題に視野を広げ、未来に向けた生き方を示唆してくれる『戻れないけど、生きるのだ 男らしさのゆくえ』。著者の清田隆之さんに同書にかける思いを聞いた。
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ジェンダーという言葉に触れる機会が増える中、自分はジェンダーの問題を理解しているのか、アップデートできているのか不安になることがある。頼りになるのが清田隆之さん(44)のエッセイだ。
男子校で過ごした思春期の痛いエピソードから、失恋、結婚、現在の双子の子育てまで、人生経験を惜しげもなく開示しながら、自身の男性性に目を向け、どこまでも誠実にジェンダーの問題を掘り下げていく。
新刊『戻れないけど、生きるのだ』ではフェミニズム系の本も多く取り上げている。セックス・シンボルとされてきたマリリン・モンローの実像に迫る山内マリコの小説『マリリン・トールド・ミー』を深夜に読み終えて放心し、「おばさん」という否定的な言葉の再定義を試みる岡田育『我は、おばさん』の果敢な熱意に涙する。
「本に食らった衝撃から言葉が出てくる一方で、著者と一緒に社会へ声を上げている自分もいる。著者が社会に向けて発信しているエネルギーや怒りの、中核の熱々の部分を損なわないよう紹介せねばと心がけました」

男性社会に対する怒りに同調しつつも、清田さんは批判される側の一員でもある。板挟みになったまま書く緊張感がどの原稿にもあった。同時にフェミニズム系の小説やエッセイを読むことは自分の男性性に向き合う絶好のチャンスだと話す。
「とにかく作者の観察眼が鋭い。男性を高解像度のカメラで撮って動きを分析してくれているようなもの。丸裸にされている」
そこで描かれる嫌な男性像と自分が重なるのはつらいが、直接怒られるよりはまし。