──オウムとの関連の前に、使われた薬品がそもそもサリンだということは、早くからわかっていたのですね。
垣見 7月の初めには判明しています。その後、長野県警察では地取り捜査(現場周辺で行う聞き込み捜査)を始めとする基本的な捜査が行われていましたが、サリン生成には特定の原材料が必要なので、それらの原材料がどういったルートで購入されているのかは捜査におけるポイントの一つでした。その捜査の過程で、「オウム教団の関係会社が(サリンの原材料を)相当量購入している」という情報が上がってきたのです。
──最近(2024年5月)、松本サリン事件に関する警察庁の内部文書が開示されました。「松本サリン事件の捜査概要」と題したもので、事件から約1年8か月後にあたる96年2月に警察庁刑事局捜査一課が作成したものです。今回開示されたこの文書を見て、日付の細かいところで事実関係を確認したいのですが、警察庁の内部文書によると3日に県の公害課と県警科学捜査研究所でサリンの結果が出たと連絡があり、その日のうちに、県警の捜査一課長らが発表したとなっています。従来では7月2日にサリンと推定される物質を検出といわれます(発表は3日)。小さなズレがあり、このあたりはいかがですか。
その経過についてはっきりと思い出すことはできませんが、警察庁の開示した文書の記載が事実に即したことでしょう。
──話を戻しますが、本部長からの電話をふまえて、8月3日に長野県警の浅岡捜査一課長が打ち合わせに来たのですね。
長野県警察捜査一課長の来庁は、本部長の電話をふまえてというよりも、7月末に河野さんの事情聴取があり、その結果をもとに今後どうするかという相談に来庁したものです。
──浅岡捜査一課長が来たときの会議テーマは、どういったものでしたか。
河野さんの事情聴取に関する状況報告と、今後河野さんの扱いをどうするかということでした。それが表向きのメインテーマです。ただ会議は二段階あったのです。最初の会議では、河野さんの事情聴取の状況について浅岡課長から話を聞いて、今後の扱いをどうするかが話題であり、オウムとサリンの件については話に出さないようにしました。事情聴取の状況についての報告を受け、今後の捜査の進め方について打ち合わせが行われました。この段階ではさまざまな情報がありましたが、打ち合わせの結果、河野さんを被疑者として取り調べを行うまでの材料は整っていない、とのことになりましたが、河野さんを捜査の対象外とするまでの判断には至りませんでした。
この場では、「今後、被疑者として取り調べをしたいとの意見が捜査担当者から出てくる場合もあるが、その時にはどうしようか」との相談も受けましたが、従来からの捜査を徹底し、容疑を裏付ける新たな事実が判明すればともかく、河野さんがサリン散布への関わり合いを否定している以上、被疑者として取り調べをすることは控える、との結論になりました。
──オウムについては、どのような話し合いがなされたのですか。
当初の打ち合わせのあと、浅岡捜査一課長だけを残して、サリンの原材料の購入について、オウム関連企業の具体的名称を含めて判明した内容を詳しく聞き「薬品捜査をさらに徹底しましょう」ということで、話は終わっています。刑事局捜査一課では、この数日後に、神奈川県警の捜査官と情報交換会を行っています。
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