
第97回米アカデミー賞授賞式が日本時間3月3日に行われた。日本から受賞作はなかったが、それぞれの作品が社会課題に向き合った。AERA 2025年3月17日号より。
【まだ間に合う!】いま観られる、これから観られる注目のノミネート&受賞作





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今年日本からノミネートされたのは3作品。長編ドキュメンタリー部門の「Black Box Diaries」(伊藤詩織監督)、短編ドキュメンタリー部門の「Instruments of a Beating Heart」(山崎エマ監督)、短編アニメーション部門の「あめだま」(西尾大介監督)。いずれも受賞はならなかったが、長編ドキュメンタリー部門での日本人ノミネートは初、短編部門でも日本人が日本題材を扱った作品のノミネートは初めて。伊藤監督の「Black~」は自身が受けた性暴力の調査に乗り出す姿を記録したもので海外の映画祭で上映されているが、許諾を得られていない映像が使用されているなどの問題指摘を受け、日本公開は未定だ。
日本の「輪」「協力」
山崎エマ監督の「Instruments~」は日本の公立小学校を追った「小学校~それは小さな社会~」の短編版で小学1年生(当時)のあやめさんが楽器に挑戦する姿を映す。ニューヨーク・タイムズが運営する動画配信サイト「Op-Docs」で公開され「ニューヨーク・タイムズが配信している作品の中では、かなり上位の再生回数らしいです」と山崎監督は笑う。YouTubeでも公開され、すでに200万回以上再生されている。日本の公立小出身の監督が海外で暮らすうちに「世界が認める日本人の性質の素地は小学校教育にあるのでは」と気づき、構想から10年余をかけて撮影した。
「日本の『輪』『協力』を大切にする教育と、海外の『個』を優先する教育の違いにみなさん驚くようです。欧米社会の分断の状況を前にこの教育法を取り上げれば世界は興味を持ってくれるだろうと感じていました」
人類共通の課題を
ナレーションなしで凝縮したエッセンスを届ける手法などはアメリカで学んだと山崎監督。
「ドキュメンタリーにもやはり時代のトレンドがあり、手法も概念も日々アップデートされています。特に今年のドキュメンタリー部門の作品は戦争や性加害など世界中で起こっている人類共通の課題に向き合った作品だと感じています。そのなかでノミネートしてもらえたことは本当に光栄です。今後も日本からもっと多くのものを発信できるようなコミュニティーを作っていきたいと思っています」
(フリーランス記者・中村千晶)
※AERA 2025年3月17日号より抜粋

