
日本時間3月3日に行われた第97回米アカデミー賞授賞式。受賞者たちが語るスピーチからはトランプ大統領への批判が見てとれた。AERA 2025年3月17日号より。
【写真】第97回米アカデミー賞受賞「ANORA アノーラ」のワンシーンはコチラ





* * *
3月3日(日本時間)に発表された第97回米アカデミー賞は「ANORA アノーラ」の圧勝だった。セックスワーカーのヒロインがロシア富豪の息子と恋に落ちる現代のシンデレラストーリーで、ショーン・ベイカー監督が作品賞、監督賞、脚本賞、編集賞の主要4部門を受賞。さらに主演のマイキー・マディソンが、大方の予想だった「サブスタンス」のデミ・ムーアを振り切って主演女優賞を手にした。ロサンゼルス在住の映画ジャーナリスト、猿渡由紀さんは言う。
「ベイカー監督の個人での4部門受賞は1954年のウォルト・ディズニー以来の快挙です。デミ・ムーアは残念でしたが、それだけ『アノーラ』という作品が愛されたという結果ですね」
最多ノミネート作は
今年最大のニュースは授賞式前に起こっていた。最多12部門13ノミネートだった「エミリア・ペレス」の失速だ。メキシコの麻薬王が「女性として生きたい」と願い、人生を変えてゆくミュージカルエンターテインメントは世界の映画賞で絶賛され、主演のカルラ・ソフィア・ガスコンが初のトランスジェンダー女性として主演女優賞にノミネート。しかしガスコンが過去に差別的発言やアカデミー賞を揶揄するツイートをしていたことが発覚して大炎上。一気にトーンダウンしてしまった。ただ猿渡さんは「それだけが理由ではない」と言う。
「スキャンダル前に締め切られていたアカデミー賞の前哨戦CCA(米放送映画批評家協会賞)やPGA(米映画製作者組合賞)でも『アノーラ』は作品賞や最高賞を受賞している。もともと人気があったのです。さらに『エミリア~』が舞台であるメキシコでの評判がよくないことも、中南米系の投票者には多少関係しているかもしれません。日本に置き換えるとわかりやすいのですが、例えば日本を舞台にしながら日本では撮影しておらず、日本人という設定の主要キャストに日本の俳優が一人も使われず、かつ外国の監督の作品だったらどう思いますか? やっぱり『へ?』となりますよね」
なお猿渡さんと筆者が最も歓喜したのはラトビア出身のギンツ・ジルバロディス監督による長編アニメーション「Flow」の受賞の瞬間であることを記しておきたい。