「Flow」(3月14日公開) (c)Dream Well Studio, Sacrebleu Productions & Take Five.

 長編ドキュメンタリー賞を受賞した「ノー・アザー・ランド 故郷は他にない」はヨルダン川西岸でのイスラエル軍による非道をパレスチナ人監督とイスラエル出身監督が共同で記録した作品だ。国際政治学者で映画ライターの藤原帰一さんは「本作の受賞の意味は大きい」と言う。

「イスラエル擁護派の多い米国がこの映画を認めることはイスラエルに対する異議申し立てにつながります。『ガザを米国が管理し、中東のリビエラにする』と発言したトランプ大統領へのNOの声でもある。そのほか編集賞のプレゼンターを務めたダリル・ハンナの『ウクライナに栄光あれ』をはじめ、登壇者たちのスピーチにはトランプ政権への批判を感じさせるものがありました」

「移民の子」は誇り

「エミリア・ペレス」で助演女優賞を受賞したゾーイ・サルダナはスピーチで「ドミニカ系アメリカ人として初めてアカデミー賞を受賞できた。移民の子であることは私の誇り」「スペイン語を歌い、話す役で受賞できた」などと力強く語った。移民排除を打ち出し、先日「英語を公用語にする」大統領令に署名したトランプ大統領へのカウンターだろう。さらに藤原さんが推す「ブルータリスト」も移民の物語だ。ホロコーストを生き延びたユダヤ人建築家を演じたエイドリアン・ブロディが2度目の主演男優賞に輝き、作曲賞と撮影賞も受賞している。

「今後、トランプは映画界に大規模な介入をすると私は思っています。ハリウッドが推進してきたDEI(多様性、公平性、包括性)の廃止を打ち出していることをはじめ、右派で知られるジョン・ヴォイトやメル・ギブソンらをハリウッドのスペシャルアンバサダーに任命し『古き良き黄金時代のハリウッドを復活させる』などとポストしている。何をやるかわからない人物なので怖いですね」(藤原さん)

(フリーランス記者・中村千晶)

AERA 2025年3月17日号より抜粋

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