伊藤沙莉

視聴者がムカつく役を演じたい

 さらに、伊藤について常に賛否両論分かれるのが、特徴的なハスキーボイスだろう。声質の好みは別としても、ときにセリフが聞き取りにくいと感じ、ストレスを感じる視聴者もいるようだ。

 伊藤自身もそれはわかっているようで、自身の声については「めざまし8」(フジテレビ系、2022年1月4日放送)で、役柄的に自身の声が邪魔になってきた時期もあり、かわいい声を出したかったと思ったことはあると告白していた。一方、2019年公開の映画「ペット2」の日本語吹き替えで、負けん気が強いシーズー犬という自身の声に合った役を演じたことで、そんな思いから解放されたという。伊藤は「自分がコンプレックスと思っていたものを、武器にするキッカケにしてくださったなというのがあります」と振り返っていた。

 CMや発言への批判などネガティブな意見はあるものの、本人はあまり気にしている様子はない。それ以上に「女優業に対する貪欲さ」が上回っているようだ。

「以前、悪役も演じてみたいとインタビューで明かしていたのが印象的です。彼女は良い人や好印象な役が多いですが、視聴者が『マジでムカつく』と思うような役をあまり演じていないので、たまには挑戦してみたいと語っていました。しっかりと役作りに取り組むだけでなく、役として嫌われることも覚悟した腹をくくった強さがうかがえます。好感度抜群というわけではありませんが、人気に頼らない演技派女優としての道を歩むのでしょう」(前出のドラマ制作スタッフ)

 エンターテイメントジャーナリストの中村裕一氏は、伊藤の魅力と今後をこう分析する。

「『これは経費で落ちません!』『いいね!光源氏くん』のようなドラマの雰囲気を和らげてくれる存在から、『虎に翼』のようなシリアスで社会性のある作品、そして映画『獣道』のようなハードな体当たりシーンまで、あらゆる役柄、あらゆるシチュエーションを自らのものとする、その才能と表現力には脱帽です。親友でもある松岡茉優と共演したフェイクドキュメンタリードラマ『その“おこだわり”、私にもくれよ!!』では、漫画家・大橋裕之とのキスシーンを披露。その衝撃と存在感は主演の松岡を上回っていたとさえ思います。子役時代から数えると50本以上のテレビドラマ、40本以上の映画に出演していますが、時代劇は2023年の正月に放送された『いちげき』が初めて。個人的にはこれから先、もっと多くの時代劇で彼女の姿を見てみたいですね」

 好感度を上げることよりも、我が道を進み演技を追及しようとする伊藤。役に入ると彼女が輝くのは、そのストイックさがあるからなのだろう。

(丸山ひろし)

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