
現地メディアなどによると、国境警備隊と中国系マフィアの接点ができたのは2017年ごろ。中国系マフィアは、オンラインカジノやカジノに来る客への金貸し、インターネット詐欺などの違法ビジネスで力をつけた「亜太(ヤタイ)インターナショナル・ホールディング・グループ」の余智江や、香港マフィア三合会系の東美グループの尹国駒らという。彼らはカンボジアやフィリピンを拠点にしていたが、規制が厳しくなり、ミャンマーの国境地帯に目をつけた。
彼らはソーチットゥー大佐らと手を組み、アウンサンスーチー氏の民主政権から、タイとの国境エリアの開発許可をとる。名目は経済特区。しかし内実は特殊詐欺や人身売買、麻薬の密売だとわかってくる。民主政権は開発にストップをかける。国軍はこの判断に戸惑ったと、当時のメディアは伝えている。すでにこのエリアからのカネが国軍に渡っていたのだ。
犯罪を強要されていたアジア人はすでに1万人規模に
それから約1カ月後、国軍はアウンサンスーチー氏を拘束し、クーデターを起こして全権を握った。このエリアの開発も再開された。
クーデター後、国軍は市民や民主派勢力の激しい抵抗に遭う。国軍は警察を民主派弾圧に駆りだしたため、通常の犯罪の摘発には手がまわらない状況ができあがっていく。特殊詐欺集団にしたら、何をしても捕まることがない「無法地帯」という環境がつくられていくのだ。
同じような経緯で、ミャンマー北部、シャン州の中国国境沿いに、特殊詐欺拠点がつくられていた。ラオカイという街を中心に主に中国人への振り込め詐欺などをする犯罪拠点だ。この存在が知られるようになるのは、2022年3月。台湾の女子大生失踪事件だった。GPS追跡などでラオカイにいることがわかった。
コロナ禍で中国本土からの人材の確保が難しくなり、中国語を使う台湾の若者を高額報酬で誘う手口が明らかになってきた。このとき、ラオカイ周辺の施設に入れられ、犯罪を強要されていたアジア人は、すでに1万人規模に達していたといわれる。中国中央テレビは、その被害額は約1.2億元(日本円で24億円)にのぼっていると報じている。