実際には「質問していいですか? あなたの言う外交とは、何ですか?」と聞いたのだけれど、バンスには「あ?」と聞こえたのだと思う。というか、私にはそう聞こえた。ゼレンスキーは「外交とは何か」などと教えてもらいたいわけではないのだから。それまでもさんざん「狂ったロシア人」とか「テロリストのプーチン」といった強い言葉を吐いてきたゼレンスキーは、プーチン相手に外交なんてやっても意味ねーんだよ! というノリだったのだから。しかもゼレンスキーはここで腕組みすらした。そしてバンスは、その挑発にきっちり乗った。メンツを潰されたと感じたからだろう。
「は? お前のシマの破壊を終わらせるための外交に決まってんだろーが」
そんなふうには言ってないが、私にはそう聞こえた。それにゼレンスキーはさらに乗った。
「JD(バンス)さぁ、お前、俺のシマに来たことあるのか? 知らないくせに戦争を語るなよ」
そんなふうには言ってないが、私にはそう聞こえた。そしてバンスはさらに切れる。
「は? お前、誰に向かって口きいてんだ? さっきから聞いてりゃエラソーに、まずは頭下げろ。だいたいオメー、バイデンの味方してただろ? まずは土下座しろや、おい」
そんなふうには言ってないが、私にはそう聞こえた。そしてゼレンスキー。
「一つ一つ、説明してやるよ。いいか、戦争ってのを教えてやるよ。今は大きな海に守られてるかもしれないが、いつかお前らも、ヒーヒー言う日が来るんだぜ」(意訳)
そこで、トランプが切れる。
「あん? 今、なんて言った? あ? 今、おめー、なんて言った? 俺たちがヒーヒー言う日が来る? ばかか、お前、お前、自分の立ち場わかってんのか? おら」(同)
そして以下……トランプがゼレンスキーをボコボコに叩き潰し、結局交渉は決裂。「俺のメンツとカネ」が優先されるアメリカを前に、「自由と民主主義」といった「西側の理想」を掲げ、ロシアの悪を語り正義を主張すれば道理が通ると考えるゼレンスキーの単純な甘さは、ひたすらに無力なのだった。なぜならこれは正義の話ではなく男のメンツの戦いだから。そしてそのためにゼレンスキーが失ったものはあまりにも大きいという、身も蓋もない仁義なき争いだから。ああこれがプロレスや任侠映画ならば思い切り笑えるバカバカしさなのに、人の命や未来がかかった外交となると……ただただ言葉を失う思いになる。それが、2025年の地球が直面している現実なのだ。