映像ジャーナリストの伊藤詩織さん(写真:REX/アフロ)
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 取材源の秘匿が守られていない――映像ジャーナリストの伊藤詩織さんが監督したドキュメンタリー映画「Black Box Diaries」は、一部の映像や音声が許諾なく使われたと指摘され、騒動に発展している。同作は米アカデミー賞の長編ドキュメンタリー部門にノミネートされているが、許諾問題が解決していないため、日本国内での配給は決まっていない。今月20日には問題を指摘する弁護士らが会見を開くと同時に、伊藤さんも今後の対応について声明を発表した。伊藤さんはこの問題を報じた東京新聞の望月衣塑子記者を提訴するにまで至っているが、一連の騒動を海外のメディアはどうみているのか。会見を開いた弁護士、望月氏やフランス人ジャーナリストらを取材した。

【写真】伊藤さんに対し「ズタズタにされた気持ち」と語った女性弁護士

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 2月20日、伊藤さんの過去の訴訟で代理人を務めた西広陽子弁護士らが日本外国特派員協会で記者会見を開き、「(民事訴訟で)8年半もの間、彼女を必死に守ってきたのに、ズタズタにされた気持ちだった。説明責任を果たし、ルールやモラルを守ってほしい」と訴えた。

 西広弁護士らが指摘している問題点はいくつかある。

 伊藤さんが元民放記者から性被害を受けたホテルの防犯カメラ映像は「裁判のみで使用する」と誓約して提供されたにもかかわらず、映画で無断使用されていること。捜査官A氏が、元民放記者の逮捕が取りやめになった経緯などを伊藤さんに説明する電話の録音などを無断で使用したこと。民事訴訟の途中で連絡が取れなくなったタクシー運転手の顔が映っている映像や音声が使われていること。西広弁護士との電話が無断で録音され、その音声が映画で使用されていること……など多くの点がある。

 中でも、最も議論となっているのはホテルの防犯カメラの映像だ。誓約に反して、防犯カメラの映像を映画で使うことに公益性はあるのか。会見に出席した佃克彦弁護士はこう話す。

「伊藤さん側は『性被害の救済という公益のために防犯カメラの映像が必要』と主張しています。民事裁判で、伊藤さんは防犯カメラに映っていた通り事実認定され、性被害が認められ、勝訴しました。つまり、伊藤さんの性被害はすでに民事裁判で救済されたわけです。他方、防犯カメラの映像を映画で出してしまうと、当該ホテルのみならず、他のホテルでも今後、同様の事件でカメラ映像を出すことに協力してくれなくなってしまうかもしれない。今後ホテルで発生するかもしれない性被害の救済にとってマイナスになるわけです。すなわち、性被害の救済という公益の観点から見た場合、公表することにより得られる利益よりもそれによって生じる弊害の方が大きく、従って、防犯カメラの映像は映画に出してはいけないという結論になるんです」

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東京新聞記者を名誉棄損で提訴