フランス人ジャーナリストの西村カリンさん(撮影/上田耕司)

「100%が詩織さんの責任ではないと思う」

 伊藤さんの著書「Black Box」は海外でも翻訳され出版されている。それゆえ、伊藤さんの名前や事件の内容はかなり知られているという。

「フランスでは3月中旬から、パリの映画館などで上映されますが、この映画に問題があることはほとんど知られていません。むしろ、この映画が日本で上映されないことに反発し、上映を求める署名活動まで起きています。彼女は権力者やメディアからバッシングされている被害者だという認識が海外では浸透していて、詩織さんは応援できる、信用できる人と思われています。彼女が間違っているとは言えない状況なのです」(同)

 とはいえ、西村さんは今回の件で伊藤さんを責める気持ちにはなれないという。

「100%が詩織さんの責任ではないと思います。問題があるのは映画のつくり方なので、プロデューサーら複数の人にも責任があると思います。製作チームの人たちは、映画が成功することを望んでいた。詩織さん1人で判断したことではないはずで、彼女だけが悪いとは私は言えません」(同)

 2月20日は伊藤さん側も記者会見を予定していたが、体調不良を理由に中止となった。その代わりに伊藤さんは声明文を発表。防犯カメラ映像を映画に使ったことについてはこう述べた。

「ホテルの防犯カメラは、私の受けた性犯罪を、唯一、視覚的に証明してくれたものです。この映像があったからこそ、警察も動いてくれました。映画への使用について、ホテルからの承諾は得られませんでした。そのため映画では、外装、内装、タクシーの形などを変えて使用しています。しかし、加害者の●●氏(声明文では実名)と私の動きは一切変えることはできませんでした。それは事実をねじ曲げる行為だからです。これに対してはさまざまな批判があって当然だと思います。それでも私は公益性を重視し、この映画で使用することを決めました」

 その他、許諾なく映像が使われている人たちについては、「映像を使うことへの承諾が抜け落ちてしまった方々に、心よりお詫びします。最新バージョンでは、個人が特定できないようにすべて対処します。今後の海外での上映についても、差し替えなどできる限り対応します」(伊藤さん)とした。

 AERA dot.は、捜査官A氏やタクシー運転手とは連絡が取れたのかなどを確認するため、伊藤さんの代理人に何度か電話したが、応答はなかった。また、渦中にあるホテルに電話すると「ホテルとしては一貫してお答えを控えさせていただいている状況です」(担当者)と当惑ぎみに答えた。

 前出の佃弁護士は「加工しようと何をしようと、ホテルの防犯カメラの映像が映画で使用されていることには変わりない」と解決策になっていないと指摘する。

 もし伊藤さんの映画がアカデミー賞を受賞したとしても、手放しでは喜べない事態になっている。今後、問題の映像にどのような処理がされるのか注目したい。

(AERA dot.編集部・上田耕司)

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