会見を開いた西広陽子弁護士(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

情報提供してくれた捜査官の顔と音声も…

 防犯カメラの映像以外にも、捜査官A氏と伊藤さんが電話で会話しているシーンが映画で使われており、A氏の横顔も映っている。A氏に了解は取れているのだろうか。

「取れていません。逮捕が止められた経緯について話してくれたのはA氏であり、取材源を秘匿する必要があります。警察官として外に出してはいけない情報を被害者に同情して特別に話してくれたわけです。その人の顔と音声をさらすことが許容される余地はありません」(佃弁護士)

 2月10日、伊藤さんは東京新聞の望月衣塑子記者が書いた記事で名誉を毀損(きそん)されたとして、望月記者に330万円の損害賠償を求め東京地裁に提訴した。望月記者の記事は「伊藤さんが利己的な人との印象を与え、社会的評価を著しく低下させた」としている。

 東京新聞は1月14日、望月記者の署名で「女性記者たちが性被害などを語った非公開の集会の映像が、発言者の許諾がないまま使われていた」などとする記事を公開した。これに対して、伊藤さん側は「許諾は得ていた」と主張。東京新聞は、伊藤さん側から抗議を受け、2月7日に見出しを訂正し、本文の一部を修正した。「誤解を招く表現だった」と謝罪も追記された。

 だが、望月氏はさらに詳しく報じるため、映画の配給・製作会社や伊藤さん本人に続報に関する質問を投げかけた。望月氏によると、映画には集会で名前を述べた部分や、映像使用を許諾していなかった1人の発言、複数の参加者の顔なども映っており、女性たちは伊藤さん側に削除を要求していたという。

「許諾の有無などについて詳細がわかり、伊藤氏に質問を投げかけると、その翌日、司法記者クラブに提訴の知らせが入りました」(望月氏)

 伊藤さんは東京新聞ではなく、望月記者個人を訴えた。

 記者との訴訟にまで発展した許諾問題を外国メディアはどう見ているのか。前述の記者会見で司会を務めたラジオ・フランス&リベラシオン新聞のフランス人ジャーナリストの西村カリンさんはこう話す。

「私もこの映画を見ましたが、感動する場面もあれば、疑問に思う場面もありました。明らかに許可なしと思われる映像があり、無断の録音、録画も多いと思います。ただ、この映画で最も価値があるのは、そういう許可を得ていない場面ですね。その意味で、映画は詩織さん個人の被害についての日記として見れば成り立ちます。ただ、ジャーナリストとしては、全く違うドキュメンタリー映画がつくれたのではないかと思います。というのは、この事件を通じて、裁判官、検事、弁護士それぞれの視点の違いや、日本の司法システムが抱える問題点を浮き彫りする映画をつくってほしかったからです。今回の映画は個人の日記になってしまっていて、記者がつくったドキュメンタリー作品ではないと思います」

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海外では「許諾問題」は知られていない