AV女優へのインタビュー集『名前のない女たち』で名を馳せた中村淳彦と『最貧困女子』で世に衝撃を与えた鈴木大介。『貧困とセックス』は、風俗業界で働く女性たちを長く取材してきたライター二人の対談集である。
 話は20年前の状況からはじまる。〈僕自身が20歳になったころは「援助交際」が世の中に出てきたばかりで、それが評論家のあいだで女の子たちの自己実現やカルチャーとして語られていました〉〈実際に2000年代に取材をしたら「こんなもんカルチャーじゃねえよ」と〉〈「ウソつきやがって」と唖然としました〉(鈴木)。〈地方の女の子や貧困層にとっては孤立する可能性を秘めたネガティブな第一歩だよね。2000年代前半は、まだ一般的に「売春=貧困」という意識はなかった〉(中村)
 それがいまではどうか。
〈なぜ、女子大生が風俗嬢になるのかというと、単純な話で、学生生活を送るためのお金が足りないわけ〉(中村)。〈地方の20代の女の子たちの取材では、月15万円前後稼いでいると「アッパークラスですよね」と言われます〉(鈴木)。〈未成年売春や風俗は、女の子が一方的な被害者というわけではなくて、裏社会の人たちが福祉的な意味で手を染めていたりする〉(中村)。〈生きることができる手段とか、事情をわかりながら助けてくれる人がいるのは、セックスワークしかない〉(中村)
 行政や支援者にも批判は及ぶ。〈親から殺されたくないから逃げているのに、そこに戻すのはありえない〉(中村)。〈人としてどうこう以前に、壮絶な貧困のバックボーンがあるなら、「説教の前にケアでしょ、あんた」と思うわけです〉(鈴木)
 貧困に直面した女性が売春に向かうのは、はるか昔からの傾向とはいえ、平成日本の現実は想像以上に強烈だ。〈結論としては、法人税の累進課税化か、資本家に富が集約しないシステムをつくることと、それを国が再分配することですよね〉(鈴木)。一見ありきたりな結論だけど、現場を知る人の言葉だけに重い。

週刊朝日 2016年10月28日号

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