うまいわけではない。安いわけでもない。中華料理屋のたたずまいだが、カレーやオムライスも提供する。何に惹きつけられるのかと問われれば説明が難しい大衆中華食堂。本書では「町中華」と呼び、北尾トロらが探訪する。
町中華の定義が曖昧なように、楽しみ方も多様だ。店主の厨房での鍋や化学調味料を振る手際の良さに驚嘆したり、美味しくないと評判の店にあえて入り、スリルを味わったり。メンバーたちはグルメサイトの星の数では表せない店の魅力を切り取る。
とはいえ、町中華は存亡の危機だ。「味はそこそこで安い」が売りだったが、チェーン店の台頭で競争力は失われた。経済合理性の土俵から下り、雰囲気や店主の個性を武器に営業している光景は郷愁にかられる。読み終えれば、町中華が恋しくなるはずだ。
※週刊朝日 2016年10月28日号