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救命措置には「力」が必要
救命措置には、男性の「力」は必要だと、兼平さんは言う。
呼吸がないことを確認した人に対しては、まず胸骨圧迫を行い、AEDが届いた後も自発呼吸が戻るまで胸骨圧迫を続ける。毎分100~120回のペースで、胸を約5センチ(乾電池1本分の長さ)、繰り返し押し下げる。「救急隊員でも5分ごとに交代する力がいる作業です。一般の男性なら2分くらい、女性なら1分も続けられない。女性だけで十分な救命措置を施すのは困難です」
「ためらい」が生じるのは、AEDの装着時だ。
AEDが届いたら、対象者の服を脱がせ、胸まわりの状態を確認したうえ、「右の鎖骨の下」と「左のわき腹あたり」の素肌にパッドを貼るのが、装着の手順だ。
ブラジャーを外す必要は「ない」
電気ショックの効果を最大限発揮するためには、①湿布や鎮痛剤などを剥がす②ブラジャーの金具やペースメーカー(皮膚の下の硬いこぶのようなもの)からずらしてAEDパッドを貼り付ける――。不慣れな人ほど、この「基本」を守ることが重要だという。
救命措置とはいえ、女性の「服を脱がせる」ことに心理的抵抗がある人もいるということだろう。実際、どういった手順が正しいのか。女性の下着を外す必要があるのか。兼平さんに聞いてみた。
「下着を外す必要はありませんが、確実にAEDパッドを装着するためには、服を脱がして貼り付け箇所にブラジャーの金具やペースメーカーなどがないか、状態を確認することは重要です」
倒れている人を、周囲の人が背中を向いて囲めば、人目を避けられる。
AEDの作業手順は、機器のスイッチを入れれば、自動で音声指示が流れる。使用者はその指示に従うだけでいい。119番通報してスピーカーフォンにしておけば、消防指令室の指示を仰ぎながら作業ができる。
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周囲の人を呼び集めて
AEDはとても有効な救命器具だ。
総務省によると、22年、救急車が現場に到着するまでの所要時間は全国平均約10.3分。心停止から1分経過するごとに生存率は約7~10%低下する。そこに居合わせた人が救急隊の到着を待っているだけだと、1カ月後生存率は7.3%だが、AEDを使用した場合は54.2%と、7.4倍も生存率が上がった(23年)。
兼平さんは、倒れている人を見つけたら、「一歩踏み出す勇気を持ってほしい」と訴える。大切なのは、倒れている人を見つけたら、すぐに周囲の人を呼び集めることだ。
「1人で抱え込まないで、一刻も早く、声を上げる。救命措置に自信がなくても、人が集まれば誰かがリードして救命措置が始まる確率が高まります」
記者は毎年、AEDや人工呼吸などの心肺蘇生法の講習を受けている。その際、消防署職員から「セクハラで訴えられた人はいませんし、その心配もありません」と、伝えられる。
「セクハラで訴えられた」は、明らかなデマだ。それによって、命が失われるようなことはあってはならない。
(AERA dot.編集部・米倉昭仁)
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