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哲学者の内田樹さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、批評的視点からアプローチします。
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トランプ政権で日替わりで「すさまじいこと」が起きているので、この原稿が誌面に載る頃にはまた別の「すさまじいこと」が起きていると思うが、現時点では、カナダとメキシコと中国に対する関税の引き上げで、外交関係がきしみ、世界経済が混乱していること、イーロン・マスク率いる政府効率化省が連邦職員の大量人員削減を始めたこと、航空機事故が頻発した責任をトランプ大統領が「バイデン政権が行ったDEI(多様性、公平性、包摂性)政策のせいだ」という責任転嫁をして、「さすがにそれはないだろう」という世論のリアクションに遭遇したことまでが最新ニュースである。
私はイーロン・マスクの「連邦政府の株式会社化」計画に最も興味を惹かれる。彼はTwitter社を買収したあと、社員全員に一斉メールで「激務か退職か」を迫り、8割の社員を退職させた実績がある。連邦政府職員に対してもトランプへの忠誠と激務の受け入れについて誓言を求め、拒否した職員は解雇すると豪語している。「上位者の指示に黙って従い、馬車馬のように働く人間」以外には用がないということである。
マスクの人件費削減の目的は、それによって浮いた分を法人税減税に回して、彼が経営する企業の収益を増大させることだと推測されている。だとしたら、これはもう「政治」ではない。ただの「金儲け」である。
さらにマスクは社会保障番号管理など連邦政府の機密情報にアクセス可能のステイタスを彼の側近の情報技術者に与えているが、彼らはFBIの身元調査を受けていないというニュースが先ほど流れてきた。もはやアメリカは民主国家の体をなしていないと言ってもよいだろう。
民主的な手続きを経て民主主義が廃絶されるのは珍しいことではない。1933年に全権委任法が議会で採択され、ヒトラーは「総統」になった。1940年に第三共和政国民議会は憲法制定権をペタン元帥に与えることを議決、ペタンはフランスの「元首(chef)」になった。2025年、トランプは有権者の喝采の中、史上最初の「アメリカ国王」になった。世界史の教科書にはいずれそう書かれることになるのかもしれない。
※AERA 2025年2月17日号
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