加藤シゲアキ(hair & make up KEIKO(Sublimation)/styling 吉田幸弘 /costume ファクトタム クルニ/撮影:写真映像部・東川哲也)
この記事の写真をすべて見る

 今村翔吾さん、小川哲さん、加藤シゲアキさんの3人の作家の呼びかけによる能登半島地震支援チャリティー短編集『あえのがたり』が刊行された。タイトルは能登地方に伝わる伝統儀礼「あえのこと」から発想されたもの。刊行を機に、加藤さんに聞いた。AERA2025年2月3日号より。

【写真】多忙な日々の中でも書くことを止めない 加藤シゲアキさん

*  *  *

「あえ」は「もてなし」、「こと」は「祭り」を意味し、「田の神様」へ感謝をささげる儀礼だ。本書は小説による「おもてなし」をテーマに、呼びかけ人の今村翔吾さん、小川哲さん、加藤シゲアキさんの3人に加え、朝井リョウさん、麻布競馬場さん、荒木あかねさん、今村昌弘さん、佐藤究さん、蝉谷めぐ実さん、柚木麻子さんの10人の作家が参加したバラエティー豊かなアンソロジーとなっている。

 チャリティー小説という構想は、前作『なれのはて』執筆後に加藤さんがぼんやりと考えていたことに端を発する。

「『なれのはて』で秋田を舞台にしたことから、地域に根ざした小説を書くこと、地方の書店や出版業界を盛り上げることを考えていました。そんな中、『なれのはて』が直木賞候補になり、その発表までの間に能登で地震が起きました。非常に胸を痛め、自分が考えていたことをチャリティーとして活用できないかと考えました」

 昨年1月の直木賞選考会の夜に加藤さん、今村さん、小川さんが集まった。

直木賞選考会の夜に

「受賞はできませんでしたが、その夜に残念会がありました。次に何を書くかという話になったときに、待ち会のインスタライブで今村さんと話していた『能登のチャリティー企画をしたい』という話題がもう一度出たんです。誰かのために小説を書くことで、僕自身も再生したいという気持ちもあったかもしれない。そんな流れで一緒にやりませんかとお願いをしました」

 加藤さん自身は小学1年生の時に大阪で阪神・淡路大震災を経験している。

「阪神・淡路大震災の時は豊中に住んでいました。そこは他の大阪の地域よりも被害が大きく、火災も多かったです。学校が休みになり、先生が亡くなりました。たった10秒、20秒の間に世界が変わるという体験でした。学校で地震について多く学びましたし、毎年1月に避難訓練も行われました。家の中も突っ張り棒だらけになった。地震が起きるたびに子どものころの経験を思い出します。すごく自分に影響があったんだと大人になってから思います」

次のページ
昨年8月には能登の被災地を訪れた