加藤さんは小説の力を強く信じている。多忙な日々の中でも書くことを止めない。
「書かざるを得ないからです。好きだから書くし、楽しいから書く。つらい時もありますが、そのつらさを乗り越えた自分と再び出会うために書くのです。極めて利己的です。ただ、それだけではつまずいた時に立ち上がれなくなる気がしていて、今回は被災地を思って書くという今まで自分がやったことのないアプローチを試してみたかったのです。また、他の作家との繋がりもあり、人の作品に刺激を受けることもできました」
では、小説を読む意味とは?
「本でしかできない体験があります。小説は能動的に進めるので没入度が違います。同じ小説を読んでも同じものを想像するわけではありません。そのため読者自身の体験になるのです。僕が自分のために書いたものが、他の人が読むとその人だけのものになる。それはドラマや映画以上の体験です。ストーリーについて考える時間が長く、距離感が一番近いのは読書です。それは結局、人を知り、人を楽しむことで、結局生きることに繋がるのだと思います」
(ライター・濱野奈美子)
※AERA 2025年2月3日号