フジ・メディア・ホールディングスの取締役相談役の日枝久氏
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元タレントの中居正広氏と女性のトラブルで揺れるフジテレビ。27日に「やり直し」記者会見が開かれた。この問題をめぐっては、堀江貴文氏が「フジ・メディア・ホールディングスの株式を買ってみた」とXで発信したことも話題になっている。2005年に「ライブドア」社長だった堀江氏が、フジテレビへの経営関与を狙ってニッポン放送株を取得した「ライブドア騒動」から20年が経過しようとしている。騒動をあらためて振り返ると、当時から同HD取締役相談役の日枝久氏が存在感を示していたことがうかがえる(この記事は、AERA2005年2月28日号からのの抜粋です。肩書などすべての情報は当時のままです)。

 フジがニッポン放送のTOB達成に自信を深めている。ライブドア株も下落し、いよいよ形勢逆転の時機が来たのか。

 17日午前2時、フジテレビの日枝久会長(67)がようやく帰宅した。取り囲む報道陣に遅くなった理由を問われると、手にした革鞄を持ち上げて、こう言った。


「民放連の理事会があるから、その準備でね。鞄の中も半分以上はその資料。ライブドア問題ばかりやってるわけじゃないですよ」


 フジが進めているニッポン放送の株式公開買い付け(TOB)の成否を問われると、


「成功するためにやっている。当然、自信もある」


 ライブドアがニッポン放送株を大量取得し、持ち株比率を35%にしたのは2月8日。その直後、フジはTOBの買い付け目標を当初の50%超から25%超へ引き下げた。25%さえ確保できれば、商法の規定で、フジに対するニッポン放送の議決権はなくなる。同放送の筆頭株主となったライブドアの影響がフジへ及ぶのを回避できる。
 平然を装う日枝氏の言葉を裏付けるように、フジ関係者が言う。


「第1目標だった50%超を断念する際、ライブドアと同じ35%を目標にする議論もあった。が、それには自信が持てず、第3目標の25%に下げた。これくらいなら何とかしますよ」


 25%を達成するには、残り12・6%の確保が必要。グループのサンケイビルが持つ2・3%を加えれば、残りは10・3%だ。
 フジの幹事証券である大和証券SMBCが旧オーナーの鹿内一族から買った約8%の株は、堀江氏が「もしフジ側に売ったら、インサイダー取引になる」と盛んに牽制しているが、フジ関係者は、


「大和分がなくても、生保や電気メーカー、出版社など相当数の大手企業が数%ずつ保有している。今、そうした持ち合い企業の説得に回っている。多くはビジネス上の付き合いも深いから、応じてくれる会社は必ずあるとみている」

「村上氏すでに売却」説


 実は、フジが自信を見せる要因が、もう一つ浮上している。


「村上氏はとっくに、ほぼ全株をライブドアに売ったようだ」


 2月18日、証券界にそんな情報が駆けめぐった。
 ライブドアは2月8日、東証の時間外取引で6回にわけてニッポン放送株を計970万株取得。そのうち1回目の売買の348万株は米サウスイースタン・アセットマネジメントの売却分と見られている。残る600万株強を売れる大株主は、1月5日時点で609万株を保有していた村上世彰氏(M&Aコンサルティング)ぐらいしか考えにくい。
 もし、村上氏側が大量に売っていれば、取引日から5営業日以内に大量保有報告書の変更届けを財務局に提出しなければならない。だが、期限の2月16日を過ぎても届け出はない。


「株を売っていても、大量保有報告書の提出を遅らせる『裏技』があるのです」


 ある関係者はそう打ち明ける。5%以上の株を保有していると、その後の売り買いで株が1%以上変動するたびに、変更報告をしなければならない。通常は5営業日以内だが、投資顧問会社や金融機関の場合、一度に大量の株を売ってその保有割合が10%未満になった場合は、翌月の15日までに報告すれば良いという「特例報告」が認められている。村上ファンドが売っていた場合、これに該当する可能性があるわけだ。

フジ「対抗策」の難点


 いまのところ村上氏側は「株の移動はノーコメント」とし、キャスティングボートを握っているように見えるが、
「もし、ライブドアが35%を取得した時点で村上氏の株を含んでいたら、状況は一変。ライブドアが過半数を取るのは難しくなる」(関係者)


 もっとも、フジは安穏としてはいられない。すでに重要事項の拒否権を持つ3分の1超を押さえているライブドアが今後、どんな奇想天外な手法で株を買い増してくるか、予測がつかないからだ。
 先のフジ関係者によれば、「今回のTOB以外にも数十パターンの対抗策を検討している」という。だが、複数の関係者から伝わってくる「対抗策」の例は、それぞれ問題を抱えている。

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