(1)フジが、ニッポン放送の持つフジ株(22・5%)を買い取って自社株消却する。
ニッポン放送のフジへの影響力をなくす単純な手法だが、穴がある。フジ株の総数が減って、外資の議決権比率が2割を超えてしまうのだ。電波法や放送法は、放送会社の議決権総数の2割以上を外国人が保有することを認めていない。


(2)ニッポン放送の持つフジ株をグループ各社に持たせる。
これなら、外資問題を回避できる。が、グループ各社に資金的余力があるのか微妙だ。しかも、簿価と時価の差が大きいため、ニッポン放送がフジ株を全部売った場合、税金が数百億円規模に上る。


(3)TOB価格を上げる。
ライブドアが利益を確定させようと、フジのTOBに応じて株を放出するかもしれないが、みすみすライブドアを儲けさせることになるため、フジ関係者は「絶対にしない」と口をそろえる。


(4)フジがライブドアに対するTOBを仕掛け、子会社化する。
米国で「パックマン・ディフェンス」と呼ばれる手法。だが、ライブドア株の3割以上は堀江貴文社長が握る。10万人以上いる個人株主の多くは堀江ファンとみられ、実現の可能性は極めて低い。


――と、どの手法にも困難さがつきまとう。

本当に得をしたのは?


 しかし、ライブドア側も厳しい立場にある。ニッポン放送株取得のために発行した800億円の転換社債は、株価よりも10%安い価格でライブドアの株式に転換できる条件がついている。全額を引き受けたリーマン・ブラザーズ証券はメリットを享受するため、ライブドア株の売りに回っており、他の投資家もこうしたマイナス要因を嫌気して売却。ライブドア株は18日まで6営業日続落し、株価は3割下落した。
 そもそも、時価総額が約2000億円のライブドアが800億円もの「実質増資」に踏み切ったことに対し、不安がる株主も多い。
 数々のM&Aを手がけてきたソフトバンク・ファイナンスの北尾吉孝社長は、こう指摘する。


「資金調達の方法にしろ、買収先の経営陣の協力が得られない状況にしろ、かなりリスクが高いやり方だ」


 同様の見方はベンチャー関係者の間にも根強い。
 今回の買収をあくまで自前のプランと主張するライブドアに対し、「裏で誰かが糸を引いているのではないか」(ネット証券社長)との推測もなかなか消えない。
 しかも、村上ファンドがすでにニッポン放送株を売っていたら、ライブドアにとって株の有力な調達先はなくなる。
 こうなると、ライブドアとフジサンケイグループが「休戦」する――という選択肢が現実味を帯びてくる。
 両者の争奪戦が続けば、大株主上位10者の保有比率が合計75%を超え、市場に流通する株式が少なくなるため、東証の上場廃止基準にひっかかってしまう。ライブドアが折れ、善後策を話し合う局面が出てくるかもしれない。
 フジ、ライブドア両者のぎりぎりのせめぎ合いは続くが、リーマンが転換社債を株に変えてライブドアに発言力を行使し、同時にニッポン放送・フジにも影響力を及ぼす可能性を指摘するベンチャー関係者もいる。
本当に得をしているのは、村上氏とリーマンだけなのかもしれない。

(AERA編集部・葛谷晋吾)

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